米国の消費者マインドは過去最低なのに、消費は伸びている。苦しいのはガソリン代で、半導体の財布はハイパースケーラー4社


所長がまた有料noteを持ってきました。今回は無料の部分がほとんどありません。元債券ディーラーの方の相場雑感で、読めるのは問いかけだけです。「アメリカの消費者が苦しいってニュースをよく見るのに、株は高値圏。その消費者って誰のこと?」。予告されている流れは、家計、企業の利益、半導体の売られ方、決算。

本人が「いつもの感想文」と書いている記事なので、前の2本(マイクロン、東芝のHDD)のように、公開情報で同じものを組み立て直すことはできません。相場観は真似するものではない。だから問いのほうだけもらって、数字で答えます。

使うのは、ミシガン大学の調査、9月の小売売上とCPI(消費者物価)、Bank of America の顧客のカード支出の集計、各社の決算説明会での設備投資の見通し(報道ベース)、Nasdaq の株価。

「過去最低」は何が最低なのか

10月9日に出たミシガン大学の10月の速報値は、見出しの指数が46.3でした。5か月ぶりの低さですが、過去最低ではありません。過去最低は5月の44.8です。

最低を更新したのは、内訳の「今の暮らし向き」の指数で、9月の50.9から44.7に落ちました。一方で「この先の見通し」の指数は46.3から47.3に上がっています。今は苦しいが、先はわずかにましになる、という答え方です。1年後の物価の予想は4.7%。

調査の側が挙げている理由は、生活費、ガソリン代、借入の金利、採用の鈍り。この順番が答えの半分です。

それでも消費は伸びている

10月15日に出た9月の小売売上は、前月比+0.8%で、予想の+0.3%を大きく上回りました。8月も+1.3%に上方修正。

ただ、中身を割ると印象が変わります。

9月の小売売上 前月比
全体 +0.8%
ガソリンを除く +0.2%
自動車とガソリンを除く +0.3%
ガソリンスタンド +6.4%(前年比 +28.1%)
飲食店 +1.1%

伸びの大半はガソリンスタンドです。量が増えたのではなく、値段が上がった。

Bank of America が自行の顧客のカード支出から出している集計(10月9日)でも、9月の1世帯あたりの支出は前年比+6.2%、ガソリンを除くと+5.1%でした。過去4年で3番目に強い伸びです。

苦しいのはガソリン代

10月14日に出た9月のCPIは前年比3.7%で、8月の3.4%から上がりました。前月比では+0.6%で、その半分以上がガソリンです。ガソリンは前月比+9.1%、前年比+34.2%。2月末に始まったアメリカとイランの戦争が終わる気配のないまま、ポンプの値段に乗っています。

ガソリンと食品を除いたコアは、前年比2.6%。物価全体が燃えているのではなく、燃えているのはエネルギーです。

だから、noteの問い「消費者が苦しいって、誰のこと?」への私の答えは、車にガソリンを入れる人全員、です。アンケートで「今が苦しい」と答えるのも、小売売上がドルで増えて見えるのも、同じガソリン代の両面です。

「お金持ちが消費を支えている」は今月は弱い

この手の話でよく出てくるのが、上位10%の世帯が消費の半分を出している、という数字です。所得の高い人が株高で潤って使い続けるから、アンケートが悪くても消費は崩れない。K字型経済と呼ばれる話です。

ただ、この「半分」は推計の取り方で大きく変わります。ミネアポリス連銀のまとめによると、半分という数字の出どころの Moody’s 自身が、手法を見直して49.2%から45.8%に下げています。政府の家計調査(BLS)から計算すると22.9%です。資産や貯蓄から逆算するか、家計に直接聞くかの違いで、倍違う。

そして10月の Bank of America の集計は、所得層ごとの差が2025年や今年の1〜3月よりかなり小さくなった、と書いています。低所得と中所得の世帯の支出の伸びが戻ってきている。いちばん伸びているのは今も上位5%ですが、その伸びも少し鈍った。

お金持ちだけが使っている、という絵は、今月の数字では薄くなっています。みんなが使っていて、みんながガソリン代に文句を言っている。そのほうが数字に合います。

半導体の財布は家計ではない

noteの副題の後半は「ハイパースケーラー、そして半導体」です。ここは問いの立て方が鋭いと思います。半導体会社にとっての「消費者」は家計ではないからです。

マイクロソフト、アルファベット、アマゾン、メタの4社が7月の決算で出した2026年の設備投資の見通しは、報道ベースでこうです。

会社 2026年の設備投資の見通し 備考
アマゾン 約2,200億ドル 2,000億ドルから引き上げ
アルファベット 1,950億〜2,050億ドル 1,800億〜1,900億ドルから引き上げ
マイクロソフト 約1,750億ドル(暦年) リースの会計の変更後の数字。7月の決算の記事に書いたとおり、変更前とは比べられない
メタ 1,300億〜1,450億ドル 下限を引き上げ

合わせて7,200億〜7,500億ドルです。全米小売業協会が出している、自動車とガソリンを除いた9月の小売売上が5,608億ドル。4社の1年分の設備投資は、アメリカの家計の日々の買い物の1.3か月分に当たります。4つの会社で。

この財布の行き先は、たとえばエヌビディアです。8月の決算の記事に書いたとおり、データセンター売上890億ドルのうち、大手クラウド向けが487億ドル、55%でした。

もう一つ、この表で引っかかる所があります。メタとアマゾンは、設備投資を引き上げた理由にメモリの値上がりを挙げていると報じられています。マイクロンが粗利率87%を出せた値上がりの、払う側です。家計がガソリン代で同じ量に多く払っているように、クラウド大手もメモリ代で同じ量に多く払っている。設備投資の増額の一部は、量ではなく値段です。

売られたのは、受け取る側だった

ここからは株価です。半導体指数(SOX)は10月14日まで6営業日で約10%下げ、15日にもさらに3%下げました。報道が挙げている理由は、CPIのあとで利上げの観測が強まったこと、割高感、AI投資の費用への疑い、中国のメモリメーカーとの競争です。TSMCは15日の決算で「AI需要は供給を大きく上回っている」と言いましたが、株は下げました。

同じ期間に、お金を払う側の4社はほとんど動いていません。

お金を払う側は動かず、受け取る側が売られた2026年10月6日の終値から10月14日の終値までの株価の変化。上4社が設備投資を払う側、下4社が受け取る側マイクロソフト+0.8%アルファベット-0.3%アマゾン-0.9%メタ-0.2%エヌビディア-7.5%TSMC-10.8%マイクロン-12.6%AMD-12.1%出所: Nasdaq の日次終値から計算
会社 立場 10月6日→14日
マイクロソフト 払う側 +0.8%
アルファベット 払う側 -0.3%
アマゾン 払う側 -0.9%
メタ 払う側 -0.2%
エヌビディア 受け取る側 -7.5%
TSMC 受け取る側 -10.8%
マイクロン 受け取る側 -12.6%
AMD 受け取る側 -12.1%

払う側の4社は平均でほぼ0%、受け取る側の4社は-7.5%から-12.6%です。市場は財布の大きさを疑っていません。疑っていたら、7,000億ドルを払う側の株も売られているはずです。疑っているのは、受け取る側の株にいくらまで払うか、のほうです。利上げが来るなら、先の利益を今の値段に割り戻す率が上がる。それがいちばん効くのは、利益の多くが先にある会社です。

これは所長にとって他人事ではありません。所長のグロース・オポチュニティの組入上位10社には、この8社が全部入っています。払う側の4社で24.1%、受け取る側の4社で20.6%。ファンドの半分近くが、この1本のお金の流れの両端です。上の値動きに組入比率を掛けると、6日から14日に、払う側の4社の分はほぼ0ポイント、受け取る側の4社の分はマイナス2.0ポイントでした。上位10社のうちこの8社だけで数えた粗い計算で、為替も入っていません。それでも、両端を持っていたから半導体の10%安が2ポイントで済んだ、という形は見えます。

次に見る所

10月の後半に、全部が1週間に集まっています。

  • 10月23日、ミシガン大学の10月の確報。ガソリンが落ち着かなければ、今の暮らし向きの指数は戻らない
  • 10月27〜28日、FOMC。利上げに踏み切るかどうか
  • 10月28日、マイクロソフトの決算(会社のIRページの日付)。アルファベットとメタも同じ週の28日前後、アマゾンは29日前後と見られています(各社まだ正式な日付を出していません)

見るのは、4社が2027年の設備投資をどう言うかです。増やすなら、受け取る側の売上はまだ伸びる。ただ、増やした理由がまたメモリの値上がりなら、増えた分は量ではなく値段で、半導体の中ではメモリの会社に寄ります。家計の側で起きていることと同じです。財布から出ていくお金が増えても、買える量が同じなら、喜ぶのは値段を上げられた側だけです。

使った資料

株価は Nasdaq の日次終値、組入比率は投資信託のデータと同じ運用会社の8月末の月次レポートです。設備投資の見通しは各社の7月の決算説明会の数字を報道から拾ったもので、会社の資料で1本ずつ確かめたものではありません。

noteの本文にあるはずの、資金の受け渡しの話はこの記事にはありません。債券ディーラーの手触りで書かれる部分で、データで追いかけて同じものになる気がしないからです。