スペースX(SPCX)の上場後はじめての決算を一次ソースで読む。売上78億ドルの2割は1社から、設備投資184億ドルの86%はAIのデータセンター


11本目はスペースX(Space Exploration Technologies、ティッカー SPCX)です。3本のファンドを組入比率の高い順に回っていて、順番で来ました。所長はこの銘柄について何も言っていません。

フィジカルAIの組入3位、7.5%。2026年6月12日にナスダックに上場したばかりの会社で、月次レポートの基準日の8月31日時点では、上場して2か月半です。

使うのは、8月4日に出た第2四半期(4〜6月)の決算プレスリリース(SECに提出された8-K)、同じ日の四半期報告書(10-Q)、決算説明会のウェブキャストの字幕、6月の上場時の目論見書(424B4)、それと8月14日のCursor買収完了の8-Kです。上場後の決算は1回しかないので、四半期の推移はほとんど追えません。その代わり、はじめての10-Qには非上場の頃には見えなかった数字が全部載っています。読んだら、ロケットの話はほとんど出てこない決算でした。

どんな会社か

事業は3つです。第2四半期の数字で並べます。

事業 売上 前年比 営業損益 設備投資 中身
Space 9.6億ドル +29% -5.4億ドル 11.7億ドル Falcon 9とFalcon Heavyの打ち上げ。開発中のStarship。四半期に38回打ち上げたうち顧客向けは10回で、残り28回は自社のStarlink衛星
Connectivity 42.9億ドル +66% +16.6億ドル 13.7億ドル 衛星通信Starlink。契約者1,200万、月額ARPU 66ドル。法人・政府向けが18.1億ドル
AI 25.6億ドル +247% -12.6億ドル 158.3億ドル 2026年2月に買収したxAI。Grok、X(旧Twitter)の広告と課金、それとデータセンターの計算能力を他社に貸すクラウド事業

合計78.1億ドル。儲けているのはStarlinkだけで、ロケットとAIは赤字です。設備投資の86%がAIに行っていて、これが今回の決算の主役です。

もう少し細かく割ると、売上の最大の項目はStarlinkの消費者向け24.9億ドル、次がAIの「ソリューション・インフラ」21.9億ドル、3番目がStarlinkの法人・政府向け18.1億ドルです。ロケットの打ち上げサービスは6.5億ドルで、全体の8%しかありません。残りはXの広告3.7億ドルと、打ち上げ・開発(政府向けの開発契約など)3.1億ドルです。会社の名前になっている事業が、売上では4番目です。

スペースX 売上の内訳(2026年第2四半期、合計78.1億ドル)Starlink 消費者向け24.9億ドルAI ソリューション・インフラ(クラウド含む)21.9億ドルStarlink 法人・政府向け18.1億ドル打ち上げサービス6.5億ドルX 広告3.7億ドル打ち上げ・開発3.1億ドル出所: SpaceX 第2四半期決算プレスリリース

直近の決算の数字

項目 2026年第2四半期 備考
売上 78.1億ドル 前年比 +92%、前期比 +66%
営業損失 -1.4億ドル 前年同期は-9.7億ドル
純損失 -5.4億ドル 前年同期は-10.1億ドル。EPSは-0.09ドル
調整後EBITDA 35.4億ドル 前年比 +191%。売上比45%
設備投資 183.7億ドル 前年同期は28.3億ドル
現金・有価証券 1,000億ドル 6月末。IPOで857億ドル、社債で250億ドルを調達
有利子負債 394億ドル うち133億ドルは後述する関連当事者からのリース
受注残 475億ドル 56%は1年以内に売上になる

売上は前期の46.9億ドルから78.1億ドルに、1四半期で31億ドル増えました。内訳はConnectivityが10億ドル増、AIが17億ドル増。AIの17億ドルのうち16億ドルは、10-Qによると「クラウドサービスの提供を始めたことによるAIインフラ売上の増加」です。つまり、この四半期の伸びの半分は、4月以降に始まった計算能力の貸し出しです。

四半期の推移は、資料に出ている範囲で4つしか並びません。2025年の第1四半期は上半期の合計81.4億ドルから第2四半期を引いた40.7億ドル、第2四半期が40.7億ドル、2026年の第1四半期が46.9億ドル、第2四半期が78.1億ドル。2025年の第3、第4四半期は、目論見書に通年187億ドルの数字しか無く、四半期には割れていません。調整後EBITDAの売上比は、同じ順に43%、30%、24%、45%です。

スペースX 四半期の売上と調整後EBITDA率資料に四半期の数字がある4期のみ。2025年第3・第4四半期は目論見書に通年の数字しか無い0306090120150億ドル40.72025Q140.72025Q246.92026Q178.12026Q243%30%24%45%13%34.5%56%売上調整後EBITDA率(非GAAP)出所: プレスリリース、10-Q、目論見書。2025Q1は上半期から第2四半期を引いた値

売上の2割を、1社が払っている

10-Qの「リスクの集中」の注記に、こう書いてあります。第2四半期の連結売上のうち、顧客Aが18.3%、顧客Bが19.5%。顧客Aは3事業すべてに関わる顧客で、前年同期も16.7%。顧客BはAI事業だけの顧客で、前年同期は10%未満でした。名前はどちらも書いてありません。

顧客Bの19.5%を売上に掛けると15.2億ドルです。ここで目論見書を読み返すと、「2026年5月にAnthropicとCloud Services Agreementを結んだ。COLOSSUSとCOLOSSUS IIの約32万5,000基のNVIDIA GPUを提供し、顧客は2029年5月まで月12.5億ドルを払う。5月と6月は立ち上げ期間として減額」とあります。月12.5億ドルの契約が5月と6月の減額期間だけで15億ドル前後、という計算は合います。10-Qは顧客Bの名前を書いていないので、ここは私の推測として書いておきます。

この契約の構造が、今回いちばん読んで考えた所です。

  • 会計上は「予約した計算能力に継続的にアクセスできる状態を保つ」という1つの履行義務で、固定の月額料金。使った量ではなく、空けておいた量に対して払われる
  • 最初の3か月を過ぎると、どちらの側からも90日前の通知で解約できる
  • 10-Qが追加したリスク要因には「AIインフラ売上の大部分は少数の顧客に集中している」「契約は90日前通知で解約できる」「顧客が自前のインフラに移る可能性」が、会社自身の言葉で並んでいる

つまり、2029年5月までの契約ではあるけれど、約束されているのは次の90日です。プレスリリースはこの四半期の「契約済み売上」を141億ドルと書いていますが、同じリリースの注記で、契約済み売上は「解約不能で強制可能な期間」の分だけだと定義しています。説明会でCFOのブレット・ジョンセン氏は、第3四半期の最初の数週間でさらに67億ドルのクラウド契約を結び、10月から6か月かけて立ち上がると言っていました。

説明会でもう一つ出た数字が、12月の売上を12倍した年率換算(ARR)で1,000億ドルに達する、という見通しです。マスク氏は「何もしなくても達成する数字で、たぶんもっと上」と言い、さらに「売上1兆ドルの社内予測を2031年から2030年に前倒しした。2029年の可能性もゼロではない」と続けました。2025年の売上は187億ドルです。4年で53倍の予測を、上場して初めての決算説明会で言っています。

設備投資184億ドルの行き先

第2四半期の設備投資は183.7億ドル。前年同期の6.5倍で、158.3億ドルがAIのデータセンターです。上半期の営業キャッシュフローは34.7億ドル、設備投資は284.8億ドルなので、本業の現金では設備投資の12%しか賄えていません。残りはIPOと社債で入った現金です。

説明会で会社が言った今後の数字を並べます。

  • 計算能力(ネームプレート)は6月末で1.4GW。2026年末に2GW超、2027年末は「5GWより10GWに近い」(マスク氏)。電力と冷却はさらに先行して、2027年末に15〜20GW分を用意する
  • 設備投資は「次の2四半期も今の四半期と同じくらい」(CFO)。年換算で700億ドル超の水準が続く
  • 新しいクラウド契約の経済性は、投下資本の回収が1年未満(CFO)。「資本がほとんど売上原価のように動いている」
  • GPUは今後NVIDIAだけで組む。「Vera Rubinが最良のアーキテクチャだから」(マスク氏)

ここで10-Qの関連当事者の注記が効いてきます。AIインフラのハードウェアの一部は、取締役のアントニオ・グラシアス氏が率いる投資会社Valor Equity Partnersとのリース契約で調達していて、会計上は「失敗したセール・アンド・リースバック」として負債に計上されています。6月末の残高は133億ドル、第2四半期の支払利息は3.27億ドルで、会社全体の支払利息6.29億ドルの半分です。もう一つ、テスラから蓄電池Megapackを第2四半期に2.95億ドル買っています。どちらも開示されている取引で、違法でも異常でもありません。ただ、有利子負債394億ドルの3分の1が取締役の会社向けで、四半期の利息を単純に年率にすると残高の10%前後の利息を払っている、というのは数字として覚えておく所です。

Cursorを600億ドルで、株で買った

4月にCursor(Anysphere)を買う権利だけを手に入れ、6月16日に権利を行使して買収契約、8月14日に完了。対価は現金ではなく、クラスA株3億8,929万株です。Cursorの株式価値を600億ドルと置き、完了直前7営業日の平均株価で割った株数。逆算すると1株約154ドルで、6月末の発行済み株式数131.8億株に対して約3%の希薄化です。

買った理由を会社は「AIの企業向け事業を加速する」と書いています。7月に出したGrok 4.5は「Cursorと並走して訓練した」とプレスリリースにあり、説明会では年内に出すGrok 5に「スペースXが四半世紀で作った全データ」を学習させて「圧倒的に最良のエンジニアにする」と言っていました。Cursorの売上や利益は、10-Qにも8-Kにも載っていません。600億ドルの買い物の中身は、資料では分かりません。

ついでに、7月6日にはデータセンター向け光トランシーバーの会社Mesh Opticalを約380万株で買っています。こちらは小さいので省きます。

気になっていること

Starlinkの月額ARPUが66ドルで、前年同期の85ドルから22%下がっています。会社は「地域ごとの価格にしているので、国が広がるとARPUは下がる」と言っていて、契約者が1年で倍の1,200万になったのでConnectivityの売上は66%伸びました。契約者が倍、単価が2割減、売上1.66倍。この算数が続く限りは問題ありませんが、V3衛星で「帯域が100倍になれば、1ビット当たりの単価が10分の1になっても売上は10倍」というマスク氏の説明は、単価が10分の1になっても需要が100倍あることが前提です。

もう一つは、この会社が「スペースX」である部分の数字が、どれも赤字だということです。Space事業は売上9.6億ドルに対して研究開発費が10.8億ドル。Starshipの開発費で、売上より多くの研究開発費を使っています。説明会では「ヒートシールドの問題は解決したと思う」「1年後には1日1回以上飛ばす」と言っていました。Starshipが飛ぶかどうかは、この決算の数字には1行も出てきません。出てくるのは、研究開発費だけです。

そして、議決権。目論見書によると、マスク氏は上場後に議決権の82.4%を持ちます。クラスB株は1株10票で、取締役の過半数を選ぶ権利がクラスB株主に付いています。ナスダックの「支配会社」として、取締役会の過半数を独立取締役にする義務を免除されています。ファンドが7.5%で持っているこの会社で、株主が決められることはほとんどありません。

株価は10月16日の終値で146.03ドル。IPO価格は135ドルで、上場後の高値は225.64ドル、安値は104.83ドルです。10月6日の171.92ドルから8営業日で15%下げています。時価総額は約1.9兆ドルで、2025年の売上187億ドルの100倍、2026年の年率換算売上1,000億ドルが本当に出るとしてもその19倍です。

次の決算で見る所

第3四半期の決算の日付は、まだ会社から出ていません。第2四半期が8月4日だったので、11月の上旬だと思っています。

  • AIインフラの売上。第2四半期は16億ドルで、月12.5億ドルの契約が満額で入れば3か月で37.5億ドルになる。AI事業の売上が21.9億ドルから40億ドル台に乗っていなければ、立ち上げが遅れているか、減額が続いている
  • 顧客Bの比率。19.5%からさらに上がるのか。10月から立ち上がる67億ドルの契約の相手が同じ会社なのか、別の会社なのか
  • 設備投資が本当に180億ドル前後で続いたか。それと、現金1,000億ドルがいくら減ったか
  • Cursorの連結。8月14日からの1か月半分の売上が、どの行に、いくら入るか
  • 12月のARR 1,000億ドルは、12月1か月の売上が83億ドルという意味です。第2四半期は月平均26億ドルでした。第3四半期の売上が、そこへどのくらい近づいたか

使った資料

組入比率は投資信託のデータと同じ2026年8月31日の月次レポートです。株価は書いた日のものです。

ファンドの名前は「フィジカルAI」ですが、この会社の今の売上を増やしているのは、物理の世界に出ていくAIではなく、データセンターの中で他社に貸されているGPUでした。