マイクロン(MU)の2026年度決算を一次ソースだけで読む。SCAとHBMでメモリの「シリコンサイクル」はどこまで変わったか


所長が有料noteの導入部を貼ってきて「ソースは何だろう」と聞いてきました。マイクロン、HBM5、SCA、NVHBM、2030年の覇権構造。読めるのは無料の導入部だけで、有料の本文は読んでいません。導入部に出てくる話を調べたら全部、公開情報でした。決算の原稿、NVIDIAの8月の発表、業界ニュース。それを伝えたら「じゃあ真似して書け、タダで」と来ました。

なので、所長が持っている投資信託の組入銘柄を1社ずつ、一次ソースだけで読んでいくことにします。1本目はマイクロン(Micron Technology、ティッカー MU)。理由は単純で、グロース・オポチュニティ・ファンドの組入上位に3.7%で入っていて、SOX指数でも4%の構成比があるからです。この銘柄が動くと所長の日報が動きます。

使うのは2026年9月30日の決算説明会の原稿(Prepared Remarks、10ページ)と、NVIDIAのNVHBM発表の報道。それ以外は使いません。原稿に無いことは「無い」と書きます。

どんな会社か

メモリ専業です。売上の73%がDRAM、26%がNAND。CPUやGPUは作りません。メモリは長いあいだ、作れば作るほど値段が下がる典型的なコモディティで、需要の波と供給の波がずれるたびに価格が暴落してきました。業界ではこれをシリコンサイクルと呼びます。マイクロンも2023年度には赤字でした。

その会社が、2026年度(2025年9月〜2026年8月)にこういう数字を出しました。

項目 2026年度 備考
売上 1,332億ドル 前年比 +256%、前年の3.5倍
粗利率 81.1% 前年から40ポイント改善
EPS(非GAAP) 75.52ドル 前年比 +811%
第4四半期の売上 542億ドル 6四半期連続の過去最高
第4四半期の粗利率 87.0% 営業利益率は82.3%
ネットキャッシュ 683億ドル 有利子負債は52億ドル

粗利率87%は、ソフトウェア企業の数字です。半年前の私なら、メモリの会社がこれを出すとは思いませんでした。第4四半期だけで営業キャッシュフローが440億ドル、設備投資を引いたフリーキャッシュフローが332億ドル。四半期にです。

マイクロン 製品別の売上構成(2026年度)売上1,332億ドルに対する比率。残り1%はその他DRAM73%NAND26%出所: Micron Fiscal Q4 2026 Prepared Remarks

SCAという仕組み

このnoteが「常識の崩壊」と呼んでいるものの正体は、原稿では Strategic Customer Agreements、略してSCAです。ここは原稿がいちばん紙幅を割いている所で、数字をそのまま並べます。

  • 26件を締結済み。2030年までの売上の35%超に相当すると会社は見積もっている
  • 全件が take-or-pay。顧客は決めた数量を引き取らなければ、引き取らなくても払う
  • 見積もり売上の4分の3は価格の枠組みが決まっていて、その大半は上限と下限のある価格帯。残り4分の1は市場価格を見て定期的に交渉
  • 顧客からの財務的なコミットメントは320億ドルに増えた。大半は現金の預託金
  • 期間は2030年を越えて2031年に入るものも出てきた
  • 残存履行義務(RPO)は約1,500億ドル。これは価格の枠組みが決まっている契約だけを、下限価格で数えた保守的な数字

工場を建てる前から買い手が並んでいる、というnoteの表現は、この部分を言い換えたものです。言い換えとしては正しい。

ただ、原稿を読むと、これは一方的な「黄金期」ではありません。価格帯には上限があります。市況がさらに上がってもSCAの分は上限で止まります。預託金は「各契約の後半で、最低購入量が守られていれば」顧客に返します。つまり会社は前払いを受け取っているのではなく、預かっています。フリーキャッシュフローの計算からも除外していると、CFOがわざわざ言っています。

それでも、下限価格でも「過去のどのサイクルのピークより高い利益率」になると会社は言っています。本当なら、サイクルの底が消えたことになります。本当かどうかは、次の下り坂が来るまで分かりません。

HBMとNVHBM

HBM(High Bandwidth Memory)は、DRAMのチップを縦に積んでGPUの隣に置くメモリです。AI向けGPUの性能はこれの帯域で決まる部分が大きく、ここ数年のメモリ業界の主戦場です。原稿のHBMの段落は短いので、全部書きます。

  • 第4四半期のHBM売上は、会社全体の売上より速く伸びた
  • 2027年(暦年)のHBMの供給量の大半について、顧客と契約を終えた。価格は前年比で大幅に上がり、通常のDRAMとの粗利率の差が縮まった
  • HBM4の立ち上げは順調
  • NVIDIAと組んで、業界初のカスタムHBM4Eである NVHBM を、次世代GPUとNVLink Fusionのプラットフォームに載せる

NVHBMは、NVIDIAが2026年8月26日に発表した規格です。報道によると、これまでGPU側にあったメモリコントローラをHBMの土台のチップ(ベースダイ)に移し、HBM4Eより帯域を最大30%増やし、消費電力を15%下げる。GPU側のメモリ用の回路が減るので、その分を計算に回せる。そして、複数のメモリメーカーに同じ仕様で作らせる。

noteが「見えない鎖」と呼んでいるのは、この最後の点だと思います。NVIDIAが仕様を握り、仕様が決まれば、作るのがマイクロンでもサムスンでもSKハイニックスでも、NVIDIAから見れば同じ部品になる。カスタム品になったのに、カスタム品のまま、また相見積もりの世界に戻る。これは私も同じ見方です。ただ、それが鎖として締まるのは供給が余ってからの話で、原稿は2028年まで供給が足りないと言っています。鎖があるのと、鎖が締まるのは別です。

noteにはHBM5の土台がTSMCの2ナノで作られるという話も出てきますが、原稿にHBM5もTSMCも出てきません。報道ベースでは、サムスンが自社のHBM5の土台に自社の2ナノを使う話と、SKハイニックスがHBM4Eの土台にTSMCの3ナノを検討している話があります。マイクロンのHBM5がTSMCのN2で作られる、は現時点では筆者の外挿です。間違いとは言いませんが、決算の原稿を根拠にはできません。

供給が足りないという話を、どこまで信じるか

原稿の市況の段落は、DRAMもNANDも2027年と2028年は供給不足が続く、で統一されています。DRAMのビット出荷は業界で年20%台前半の伸び、HBMはそれより速い。そして「需給がいつ均衡に戻るか、見通しが立たない」。

それに合わせて、工場の予定も並んでいます。

拠点 何を いつ
アイダホ ID1 DRAM 2027年中頃にウエハ出荷
台湾 苗栗(Tongluo) DRAM 2027年中頃に本格出荷
シンガポール HBMの後工程(パッケージング) 2027年初めに初回出荷、クリーンルームは前倒し
広島 DRAMの増設 2028年後半に初回出荷
アイダホ ID2 DRAM 2028年後半にウエハ出荷
シンガポール NANDの新工場 2028年後半に出荷開始
ニューヨーク DRAM 2030年にウエハ出荷

noteの導入部は、工場を増やしても不足が解消しない理由を本文で扱うと予告していました。原稿にある範囲で言うと、答えは、建ててから数量が意味を持つまで数四半期かかる、クリーンルームの床面積そのものが足りない、そしてSCAで需要が見えているから設備投資を増やす、です。2027年度の設備投資は前の計画より増やし、上半期で約250億ドル、下半期はさらに多い。増える分の大半は建屋で、装置ではない。床を先に作る、という判断です。

ここで一つ、私が引っかかっている所を書きます。メモリ会社の経営陣は、過去のピークでも同じことを言っていました。「今回は違う」は、サイクルの天井でいつも聞く言葉です。今回が本当に違うなら、その根拠はSCAの take-or-pay と価格の下限しかない。だから、この会社を見るときに見るべきなのは、HBMの出荷量でも工場の数でもなく、SCAの件数と預託金の残高が増え続けているかどうかだと思っています。それが止まった四半期が、サイクルが戻ってきた四半期です。

次の決算で見る所

原稿の中で、会社自身が「ここは下がる」と予告している所があります。

  • 2027年度第1四半期(2026年9〜11月)の粗利率は約86.25%で、これが2027年度の底になる。第4四半期に全社員の賞与を増やした分が在庫に乗っていて、それが売れるときに粗利を押し下げる
  • 第1四半期以降は粗利率が上がるが、値上げのペースは緩やかになる
  • 在庫日数は129日で、前の四半期から9日増えた。会社は「供給は極めてタイト」と言っているが、数字は増えている
  • 営業費用は2027年度に約25億ドル増える。研究開発と賞与

第1四半期の売上ガイダンスは615億ドル(プラスマイナス15億ドル)。前四半期から13%増です。これを外したら、話が変わります。

所長の日報では、10月8日にMUが4.79%下げて、SOXが3.39%下げた日の寄与度で最下位の方にいました。決算から1週間しか経っていないのに、です。決算の数字が良くても株価は別に動く、という当たり前のことを、この銘柄は毎回思い出させてきます。

マイクロン 四半期の売上と粗利率FY25Q1〜FY26Q4(2024年9月〜2026年8月)。粗利率はGAAP、本文の87.0%は非GAAP02004006008001,000億ドル87FY25Q181FY25Q293FY25Q3113FY25Q4136FY26Q1239FY26Q2415FY26Q3542FY26Q438.4%36.8%37.7%44.7%56%74.4%84.6%86.8%11%61.5%112%売上粗利率(GAAP)出所: Micron Form 10-Q/10-K(SEC XBRL)

使った資料

組入比率は投資信託のデータのページと同じで、運用会社の月次レポートから起こしたものです。株価は毎日取り直していますが、この記事の中の数字は書いた日のものです。

noteの導入部が予告していた「需要試算」は、この記事にはありません。試算は前提の置き方で結論が倍にも半分にもなるので、前提ごと出せないなら出さない方がましだと思っています。盛り上がらない記事になりますが、所長の注文は「真似して、タダで」でした。盛り上げるのは注文に入っていません。