Anthropic(ANT)が上場する。ハイテクの投資信託を持っている人は、分散したつもりで、もうこの1社に賭けている


Anthropicが10月26日に、上場の目論見書(Form S-1)をSECに出しました。ナスダックに上場し、ティッカーは「ANT」の予定です。株数と価格の欄はまだ空いています。

投資信託は、たくさんの会社に分けて持つためのものです。 所長のフィデリティ・グロース・オポチュニティも83社に分かれています。

ところが目論見書を読むと、上位の5社が同じ1社につながっていました。 アマゾン、アルファベット、マイクロソフト、エヌビディア、AMD。組入上位10社のうち31.2%分です。どの会社も、Anthropicの株主か、計算資源を売る取引先か、Anthropicのモデルを売る窓口か、そのいくつかに当たります。別々の会社に分けたつもりで、同じ1社にまとめて賭けている形です。上場すると、その1社に毎日値段が付きます。

グロース・オポチュニティの中身組入比率(2026年9月30日の月次レポート)。83社のうち上位10社が55.0%31%Anthropicとつながる5社 31.2%24%上位10社のほか5社 23.8%45%11位以下の73社 45%つながる5社: エヌビディア 9.6%、マイクロソフト 7.5%、アルファベット 6.3%、アマゾン 4.5%、AMD 3.3%出所: フィデリティ・グロース・オポチュニティ 月次レポート、Anthropic 目論見書

使うのは、Anthropicの目論見書、アマゾンとアルファベットの2026年4〜6月の四半期報告書(10-Q)、マイクロソフトの2026年度第4四半期の決算プレスリリースです。

上位の会社が、同じ1社につながっている

会社 株主として 取引先として 窓口として
アマゾン 評価益628億ドル 1,100億ドル以上 Bedrock
アルファベット 名前は出ていない 1,145億ドル以上 Gemini
マイクロソフト 評価益32億ドル 449億ドル以上 Foundry
スペースX - 最大1,205億ドル -
AMD - 200億ドル超 -

「株主として」は、その会社が2026年に計上したAnthropic株の評価益です。「取引先として」は、Anthropicがその会社に払うと約束した額です。エヌビディアは目論見書に提携先として出てきますが、額は載っていません。

アマゾンの利益の大半は、Anthropicの値上がり

アマゾンの10-Qには、Anthropicの名前がはっきり出ています。

  • 2023年から2025年にかけて、Anthropicの転換社債に80億ドルを出した。2026年4〜6月には優先株に100億ドルを出している
  • Anthropicの資金調達で値段が付いたので、持っている優先株の評価を2026年1〜6月に628億ドル引き上げた
  • 4〜6月だけで見ると、営業外の利益が534億ドルで、本業の営業利益275億ドルの2倍近い

Anthropicの値段は、資金調達のたびに大きく上がっていました。優先株1株の値段は、2025年8〜9月が140.97ドル、2026年1〜2月が259.14ドル、5〜6月が589.01ドル。10か月足らずで4.2倍です。2026年9月に1株を10株に分割したので、最後の値段は分割後の1株で58.90ドルに当たります。

アルファベットの10-Qは、相手の名前を出していません。4〜6月の株式の評価益990億ドルは「主にSpaceXと、ある未上場企業」の分だと書き、その「ある未上場企業」に2030年までに200億ドルを追加で出す約束がある、としています。Anthropicの目論見書には、グーグルから2030年12月まで最大200億ドルを借りられる枠が載っています。金額と期限は一致しますが、アルファベットの書類に名前が無いので、同じ会社だとは断定しません。

マイクロソフトは、2026年4〜6月にAnthropicへの投資で32億ドルの利益が出たと、決算のプレスリリースに書いています。

その裏で、Anthropicには807億ドルの赤字が出ている

アマゾンの利益になった値上がりは、Anthropicの帳簿では赤字になっています。2026年1〜6月の純損失は807億ドルで、そのうち724億ドルがこの分です。

同じ値上がりが、片方では損、片方では利益2026年1〜6月。単位は億ドル。どちらも現金は動いていない-724Anthropic転換社債などの評価の損628アマゾンAnthropic株の評価益出所: Anthropic 目論見書、Amazon 10-Q(2026年4〜6月)

何の赤字か

アマゾンが持っている転換社債は、決めた値段でAnthropicの株に変えられる借金です。値段は普通株1株あたり2.09ドルと5.05ドル。Anthropicの値段が58.90ドルまで上がっても、アマゾンは2ドルや5ドルで株を受け取れます。

Anthropicの会社の値段が上がるほど、この「安く株を渡す約束」の重みが増えます。Anthropicはその増えた分を、決算のたびに損として計上しています。

最初だけではない

この損は、2023年からどの四半期にも出ています。いちばん大きかったのは、値段が2.3倍になった2026年4〜6月です。目論見書は「株に変わるか、返すか、決済するまで計上し続ける」と書いています。逆に会社の値段が下がった期は、利益になります。

悪い赤字か

事業がうまくいっていない、という意味の赤字ではありません。本業の数字はむしろよくなっています。

  • 売上は1〜6月に163億ドルで、前年同期の14倍
  • 本業の赤字(営業損失)は、2025年の81億ドルから、1〜6月は6.9億ドルまで縮んだ
  • 計算資源の費用は、2025年は売上の1.6倍だったが、1〜6月は売上の55%
  • 本業で入ってきた現金は、1〜6月に39億ドルのプラス。前年同期は15億ドルのマイナスだった

ただ、何も失われていない数字でもありません。アマゾンが2ドルや5ドルで株を受け取れば、そのぶん株の数が増え、ほかの株主の取り分が薄まります。この赤字の中身は、ほかの株主からアマゾンへ移っていく価値です。

上場したら消えるか

大半は消えます。上場の直前に、アマゾンの転換社債は株に変わるからです。

ただし全部ではありません。アマゾンは持ち分が12%を超える分は株に変えられない決まりで、超えた分は利息の付かない社債のまま残り、四半期ごとに少しずつ株に変わっていきます。グーグルやアマゾンから今後お金を借りる約束も、同じように時価で測られます。上場のあとは、その時価がAnthropic自身の株価で決まるので、株価が上がるとAnthropicの赤字が増え、下がると利益が出るという逆向きの動きが残ります。どれだけ残るかは、上場の株数が決まるまで分かりません。

取引先として: 約4,100億ドルの支払いの約束

Anthropicは計算資源の多くを、クラウド各社から借りています。所長の投資信託に入っている5社に払う約束だけで、約4,100億ドルです。

Anthropicが払うと約束した額計算資源の契約。単位は億ドル。スペースXは「最大」、AMDは見込みスペースX最大1,205億ドル(2029年まで)グーグル1,145億ドル以上(2033年まで)アマゾン1,100億ドル以上(2036年まで)マイクロソフト449億ドル以上(2033年まで)AMD200億ドル超の見込み出所: Anthropic 目論見書(2026年10月)
  • グーグル: 2033年7月までに1,145億ドル以上。ほかに2028〜2031年に届くTPUの追加分で1,250億〜1,500億ドルの見込み
  • アマゾン: 2036年4月までに1,100億ドル以上
  • マイクロソフト: 2033年5月までに449億ドル以上
  • スペースX: 2029年までに最大1,205億ドル
  • AMD: 2027年からの分で200億ドル超の見込み

グーグル、アマゾン、マイクロソフトの分は、使わなくても払う約束です。3社から見れば何年も先まで決まった売上で、受注残の一部になっています。

スペースXの分は、スペースXの4〜6月の記事で名前が伏せられていた「顧客B」です。当時は月12.5億ドルの契約でしたが、その後の契約の追加で、2026年12月からは月に約31億ドルになります。こちらは2027年春以降、どちらからでも90日前の通知で解約できます。

窓口として: Anthropicの売上の48%

Anthropicのモデルは、アマゾンのBedrock、グーグルのGemini Enterprise Agent Platform、マイクロソフトのFoundryでも売られています。この窓口を通った売上が、2026年1〜6月に48%でした。2023年は11%です。窓口の会社は代金を集め、手数料を引いてAnthropicに渡します。

売上の半分は、3社の窓口を通る2026年1〜6月の売上の48%がクラウドの窓口経由。2023年は11%48%手数料を引いて直接 52%企業のお客さん3社の窓口Bedrock・Gemini・FoundryAnthropic出所: Anthropic 目論見書(2026年10月)

所長の投資信託では

2026年9月30日の月次レポートの組入上位10社のうち、目論見書に名前が出る会社です。

Anthropicがつまずくと、上位の会社が一緒に揺れる

Anthropicの売上が伸び続けるあいだは、上位の会社にとってよいことが重なります。株の評価益が増え、計算資源の約束は守られ、窓口を通る売上も増えます。

逆に、Anthropicの株価が下がったり、売上の伸びが止まったりすると、同じことが逆向きに重なります。アマゾンとアルファベットには評価の損が出て、約4,100億ドルの約束は、半年の売上163億ドルに対して重くなります。別々の会社に分けて持っているつもりでも、この1社が理由で同じ方向に動きうる、ということです。

先に上場したスペースXでは、もう起きています。アルファベットはスペースXが上場したあとの4〜6月に990億ドルの評価益を出し、純利益が前年同期の4倍になりました(アルファベットの記事)。Anthropicが上場すれば、アマゾンとアルファベットの純利益は、Anthropicの株価でも上下するようになります。

今週の決算は、評価益を抜いて読む

今週、アルファベットとマイクロソフト(10月28日)、アマゾン(10月29日)が7〜9月の決算を出します。純利益が大きく伸びていたら、まずその他の損益を見て、Anthropicなどの株の評価益がいくら入っているかを確かめます。本業の調子は、評価益を抜いた数字か、営業利益で見ます。

ほかに見る所です。

  • 目論見書の修正版で株数と価格の幅が出たとき、最後の資金調達の58.90ドル(分割後)より上か下か。上ならアマゾンの次の評価益は増え、下なら減る
  • グーグルは上場と同時に、最大100億ドル分の株を上場の価格で買える。買うかどうか

使った資料

組入比率は投資信託のデータと同じ2026年9月30日の月次レポートです。

この会社は半導体を買う側・使う側の地図の「AIを作る会社」にいます。