イーライリリー(LLY)の2026年第3四半期決算を一次ソースで読む。9か月で182億ドルを次の薬の買い物に使い、工場の2倍。売上の66%の分子に後発品の申請
次の決算は2027年2月3日ごろの見込みです(推定。前年の同じ時期から)。過去の発表日は2026年10月29日、8月5日、4月30日、2月4日。決算日の一覧
順番で来た銘柄です。グロース・オポチュニティの組入10位、3.2%。所長はこの銘柄について何も言っていません。
決算は10月29日の米国の朝に出ました。使うのは、SECに出た8-Kに付いている第3四半期(7〜9月)のプレスリリース、同じ日の四半期報告書(10-Q)、比べるための8月の第2四半期の10-Q、Motley Fool に載った決算説明会の書き起こしです。
速報は、売上244億ドルで+39%、通期見通しの引き上げ、買収費用でEPSの見通しだけ下がった、で埋まっています。この記事は、キャッシュフロー計算書の投資活動の欄と、10-Qの訴訟の注記を読みます。
どんな会社か
糖尿病と肥満の薬で稼ぐ会社です。主役は1つの分子、チルゼパチドで、糖尿病向けの商品名がマンジャロ、肥満向けがゼップバウンド。中身は同じです。事業セグメントは1つしか無いので、治療領域別の売上で書きます。7〜9月の数字です。
- 心血管代謝(糖尿病・肥満): 197.6億ドル、売上の81%。マンジャロ107.2億ドル(+65%)、ゼップバウンド53.5億ドル(+49%)、今年発売の飲み薬フォンダヨ1.8億ドル。古い薬のトルリシティは9.0億ドルで-14%
- がん: 26.0億ドル。乳がんのバーゼニオ15.1億ドル(+3%)
- 免疫: 14.4億ドル。乾癬のトルツ8.6億ドル(-5%)
- 神経: 4.4億ドル。アルツハイマー病のケサンラ1.9億ドル(+175%)
マンジャロとゼップバウンドを足すと160.7億ドル、売上の66%です。地域別では米国151.4億ドル(前年113.0億ドル、+34%)、欧州44.6億ドル(前年35.0億ドル)、その他の国32.1億ドル(同16.9億ドル)、中国9.5億ドル(同5.6億ドル)、日本6.5億ドル(同5.6億ドル)。
直近の決算の数字
- 売上: 244.0億ドル、前年比+39%。stockanalysis.comの予想226.2億ドルを7.9%上回りました。数量+53%、実現価格-15%
- 粗利率: 83.9%(非GAAP 84.4%)、前年同期から1.0ポイント改善
- 買収した研究開発(IPR&D)の費用: 41.8億ドル。前年同期は6.6億ドル
- 営業利益: 86.1億ドル(+17%)。純利益64.5億ドル(+16%)
- EPS: 7.22ドル。非GAAPでは7.48ドル(+7%)で、どちらも買収費用4.57ドルを引いたあとです。stockanalysis.comの予想6.61ドルは7〜9月の買収を知らない時点の数字なので、同じ土俵では比べられません。Zacksの集計5.38ドル(アナリスト3人)は基準の記載が無く、2つの集計で1.2ドル違います
- 営業キャッシュフロー(1〜9月): 274.2億ドル。前年同期は135.9億ドル
- 通期の会社予想: 売上910〜920億ドル(前回850〜870億ドル)。非GAAPのEPSは35.00〜36.00ドルで、前回の35.50〜36.50ドルから下がりました。4.07ドルの上方修正と4.57ドルの買収費用の差し引きです
売上には約9億ドルの一時的な押し上げが入っています。ジャディアンスの販売マイルストーン4.1億ドルと、リベートと値引きの見積もりの見直しです。マイルストーンはこれで最後だと10-Qにあります。
9か月で182億ドル。工場の2倍を、次の薬の買い物に使った
ここがこの記事を書きたかった所です。
1〜9月のキャッシュフロー計算書の投資活動の欄に、「買収に払った現金」106.9億ドルと「研究開発資産の購入」75.5億ドルが並んでいます。10-Qの本文は「事業開発に182億ドルを払った」とまとめています。同じ期間の工場への設備投資は84.4億ドルです。薬を作る工場より、次の薬の候補を買うのに2倍のお金を使っています。
買ったものを注記から拾います。Centessa 65.9億ドル(睡眠障害、6月)、Kelonia 49.0億ドル(骨髄腫の体内CAR-T、6月、追加払い最大37.5億ドル)、AtaiBeckley 26.1億ドル(治療抵抗性うつ病、9月)、残りのOrna、Ventyx、Curevo、Ajaxは9〜12億ドルずつ。期末後の10月にはMeridaを最大29億ドルで買っています。注記の「開発段階」の欄は、全部フェーズ1かフェーズ2です。売上のあるものは1つもありません。
説明会で事業開発の責任者は「リスクは私たちの友人です。明日の売上を必要としていないから、そうできる」と答えました。チルゼパチドが稼いでいる間に、10年後、20年後の薬を仕込む、という言い方でした。
この買い方は損益計算書にそのまま出ます。事業の買収とみなしたCentessa、Kelonia、Ventyxは貸借対照表に載り、のれんは年初の59億ドルから99億ドルに、無形資産は65億ドルから181億ドルに増えました。資産の買収とみなした残りは、買った瞬間に費用になります。それが「買収したIPR&D」の41.8億ドルで、1〜9月では75.4億ドルです。
この会社は、その費用を非GAAPの利益からも除きません。だから売上を55億ドル上げたのに、通期EPSの見通しが下がりました。速報は「下がった」で終わりですが、私は逆に、買い物の代金を利益の外に出さないこの会社の非GAAPの数字は、同業より信用できると読みました。
お金の出どころも書きます。9月末の現金は49億ドルで、年初の73億ドルから減りました。有利子負債は425億ドルから495億ドルに増え、5月に社債を90億ドル出しています。10-Qはその使い道に「CentessaとKeloniaの買収代金の一部」を挙げています。稼いだ274億ドルでは足りず、借りて買っています。
売上の66%の分子に、後発品の申請がもう届いている
10-Qの「偶発事象」の注記に、7月に届いたものが書いてあります。複数の後発品メーカーが、マンジャロとゼップバウンドの後発品の承認申請(ANDA)を特許の満了前に出したという通知です。8月にデラウェア州の連邦地裁で特許侵害の訴えを起こしました。第2四半期の10-Qにも同じ通知は載っていて、その時は「提訴する予定」でした。今回「提訴した」に変わっています。どの特許がいつ切れるかは、10-Qに書いてありません。
米国の後発品の申請は特許が切れる何年も前に出すのが普通で、通知自体は驚くことではないです。ただ、売上の3分の2を預けている分子の話です。
もう1つ、10-Qが先に言っている値下げがあります。米国のインフレ抑制法(IRA)で政府が価格を決める薬に、ジャディアンスが2026年から、トルリシティとバーゼニオが2028年から入ります。会社は「他の主要製品も今後選ばれると予想している」と書いていて、この文は第2四半期から変わっていません。
値段は下がり続け、数量で埋める
7〜9月の+39%の中身は、数量+53%、価格-15%です。米国は数量+41%、価格-7%ですが、CFOは説明会で、リベートの見直しの押し上げを除くと米国の価格は-10%だと言いました。米国外は数量+76%、価格-29%で、価格の下げは中国の国家医療保険の薬価リストにマンジャロが入ったためです。
2027年の見通しは1月に出ますが、CFOは先に言っています。価格は来年も逆風で、数量で埋める。2026年の売上には約20億ドルの一時的な要因が入っていて、来年は無い。米国の伸びは、メディケア(高齢者向け公的保険)の肥満薬の橋渡しプログラムの通年化と、フォンダヨの糖尿病での発売。この橋渡しプログラムは10-Qによると2027年12月31日までの時限で、7月以降に50万人以上が処方を受けました。延長はまだ誰も決めていません。
気になっていること
会社予想が当たらないこと。 説明会で、あるアナリストが「御社の予想は結果の良い予測器ではなかった」と切り出しました。通期の売上予想は年初から約100億ドル上がっています。CEOの答えは、年初に分からなかった変数が2つあった、でした。橋渡しプログラムの立ち上がりと、海外で自費で買う人がどこまで広がるか。「下に外すより上に外す方がいい」とも言っていました。そのとおりですが、幅が広いままなら、次も上に外れるとは限りません。
自社株買いの値段。 7〜9月の自社株買いは3.7億ドルで、平均の取得価格は1,168ドル。同じ四半期に薬の候補には41.8億ドルを使っています。株価が1,400ドルを超えた今、残り66億ドルの枠をどう使うかは見ておきます。
次の決算で見る所
第4四半期の決算は1月で、2027年の通期見通しが出ます。日付は資料にありません。その前に12月7日に研究開発の説明会があります。
- 2027年の価格の下げ幅。CFOが「逆風」と言った大きさが数字で出るか
- 第4四半期の地力。通期予想から1〜9月の671.7億ドルを引くと238〜248億ドルで、第3四半期と横ばいです
- フォンダヨの糖尿病での承認。第4四半期に規制当局の判断があると会社は言っています
- 買収したIPR&Dの費用。Meridaの29億ドルは期末後なので、まだ予想に入っていません
結果は別の記事で書きます。
使った資料
- Lilly reports third-quarter 2026 financial results(Form 8-K 添付のプレスリリース、2026年10月29日)
- Eli Lilly and Company, Form 10-Q(2026年第3四半期、2026年10月29日)
- Eli Lilly and Company, Form 10-Q(2026年第2四半期、2026年8月5日)
- Eli Lilly (LLY) Q3 2026 Earnings Call Transcript(The Motley Fool)
- SEC XBRL Company Facts(CIK 59478。四半期の売上と売上原価の系列)
組入比率は投資信託のデータと同じ2026年9月30日の月次レポートです。株価は書いた日のものです。10月30日の終値は1,417.54ドルで、決算の日に+6.6%、翌日に+3.2%上がりました。
182億ドルの買い物が当たりかどうかは、何年も先まで分かりません。分かっているのは、稼ぎの3分の2を1つの分子が出していて、その分子の後発品の申請がもう届いていることだけです。会社はそれを知っていて、だから買っている。私はその順番の方が、買収費用でEPSが下がったことより、ずっと大事だと思っています。
この会社は医療の地図の「新薬の会社」にいます。