黒松の実生
2026年9月8日
実生(みしょう)は、種から苗を育てて素材を作ることです。 松は挿し木が付かないので、黒松の素材を自分で作るなら実生か接ぎ木になります。実生は種から根まで全部を自分で作るので、幹の立ち上がりと根張りを最初から思いどおりにできる代わりに、年数がかかります。
種は10〜11月に採り、3月にまきます。 発芽は4〜5月。発芽から1か月ほどで軸切り挿し芽をして、根を放射状に作り直します。ここが黒松の実生でいちばん手を入れる場面です。
1年目は伸ばすだけ、2年目に1本ずつ鉢上げして肥料を効かせ、3年目から針金で模様を付けます。 太らせる途中は切りません。芽切りに入れる木が出るのは5年目以降、小品の形が見えてくるのは10年です。年数を縮めようとして早く切ると、太らず分かれもしない木になります。
挿し木・取り木・接ぎ木との違い
| やること | 黒松で | できる素材 | 年数 | |
|---|---|---|---|---|
| 実生 | 種をまいて苗から育てる | できる | 根張りと立ち上がりを自分で作った素材。数を作れる | 長い |
| 挿し木 | 枝を切って土に挿し、根を出させる | 付かない | ||
| 取り木 | 枝に根を出させてから親から切り離す | ほぼ付かない | ||
| 接ぎ木 | 台木に別の木の枝を接ぐ | できる | 葉性のよい品種を早く増やす。接ぎ目が残る | 短い |
黒松、赤松、五葉松は挿し木と取り木が付きません。もみじや真柏なら挿し木で増やせますが、松は種か接ぎ木です。接ぎ木は葉性のよい品種を早く増やす手で、実生は根張りから全部を自分で作る手です。
いつ
| 時期 | すること |
|---|---|
| 10〜11月 | 松ぼっくりを採り、種を取り出す。乾いた場所で春まで保存 |
| 3月 | 播種。前日に一晩水に浸け、沈んだ種だけまく |
| 4〜5月 | 発芽。子葉が5〜8枚、輪になって開く |
| 5〜6月 | 軸切り挿し芽。子葉が開ききって、本葉が出る前 |
| 6〜9月 | 日に当てて伸ばす。水を切らさない。肥料は薄く |
| 翌年3月 | 鉢上げ。1本ずつポットか鉢に。肥料を効かせ始める |
関東平野部の目安です。秋に採った種をそのまま冬にまく手もあります。寒さに当たって春に揃って出ます。冬にまく場合は、雨ざらしで凍らせず、乾かさずに春を待ちます。
どうやる
種を採る
松ぼっくりが茶色くなって鱗片が開き始めた頃、木から採ります。落ちたものは種が飛んだあとです。採った松ぼっくりを乾いた場所に置くと鱗片が開き、羽の付いた種が出てきます。羽は取ります。
種は乾いたまま、紙袋か封筒に入れて春まで保存します。密閉容器で湿ると傷みます。三河黒松のように、葉性のよい系統の種として売られているものもあります。
まく
まく前日に一晩水に浸け、浮いた種は捨てます。 浮く種は中身が無く、出ません。
用土は赤玉土の小粒に桐生砂か川砂を同量混ぜたもの。肥料は入れません。深さ5cmほどの平鉢か育苗箱に入れ、種を2〜3cm間隔で置き、5mmほど覆土します。深くまくと出ません。
たっぷり水をやり、発芽まで表土を乾かしません。日の当たる場所で、雨で種が流れないように置きます。
発芽から軸切り挿し芽まで
3〜4週間で軸が持ち上がり、種の殻を被ったまま出てきます。殻は自然に落ちます。子葉が輪になって開いたら、日に当てます。日が足りないと軸が長く伸びて倒れます。
発芽から1か月ほど、子葉が開ききって本葉が出る前に、軸切り挿し芽をします。 苗を抜き、軸の地際から1cmほど上、根との境で切り、切った上側を砂に挿し直します。切り口から放射状に根が出ます。
これをする理由は根張りです。種から出た根は下へまっすぐ1本伸びる直根で、そのまま育てると根張りが片寄ります。軸を切って挿し直すと、切り口の周りから均等に細根が出て、八方に張った根になります。挿すときに軸に曲を付けておけば、立ち上がりの模様も同時に作れます。
挿し床は川砂か桐生砂の単用。深さ1cmほど挿し、たっぷり水をやり、日陰で1週間、根が動き始めたら半日陰、2〜3週間で日なたへ戻します。この間は絶対に乾かしません。
軸切りをしない場合は、種をまいた鉢のまま秋まで育てます。根張りは片寄りますが、苗の数を確実に残せます。
1年目
伸ばすだけです。日なたで、水を切らさず、肥料は6月から薄い液肥を月に1〜2回。固形肥料は置きません。秋には本葉が10本前後、高さ5〜8cmになります。
冬は霜に当てても枯れませんが、鉢が凍ると根を傷めます。軒下か棚下に置きます。
2年目
3月に1本ずつ鉢上げします。 根を軽く整理し、直根が残っていれば切り、細根を広げて植えます。用土は赤玉土の小粒に桐生砂を3割。鉢は根が回りきる小ささのほうが、根が細かく分かれます。ポットならA4のトレイに並べて管理できます。
鉢上げから1か月したら固形肥料を置きます。ここから太らせる期間です。肥料は3月から6月、9月から11月。夏は控えます。
葉は減らしません。太らせる途中の葉は幹を太らせる元で、減らせばそのぶん太りません。密植で日が入らなくなったら、葉を減らすのではなく間隔を空けます。
3年目から
針金で模様を付けます。幹がまだ細く柔らかい3〜4年目が、いちばん曲がる時期です。太ってからは曲がりません。針金は春か秋に掛け、食い込む前に外します。
太らせたい幹は、頂芽を伸ばし放題にします。伸ばせば太る、切れば太らない。 小枝は太らせ終わってから作ります。
5年目以降、春の新芽が太く出る木が出てきます。そうなった木から芽切りに入れます。新芽が細い木は切りません。10年で小品の形が見えてきます。
種から何年で何ができるか
| 年数 | 状態 | できること |
|---|---|---|
| 1年目 | 高さ5〜8cm。本葉10本前後 | 軸切り挿し芽。あとは伸ばす |
| 2年目 | 高さ10〜15cm | 鉢上げ。肥料を効かせて太らせ始める |
| 3〜4年目 | 幹が鉛筆ほど。まだ柔らかい | 針金で幹の模様を付ける |
| 5〜8年目 | 幹が太り、新芽が太く出る木が出てくる | 太くなった木から芽切り。小枝を作り始める |
| 10年 | 小品として形が見える | 鉢に上げて仕上げに入る |
早い遅いは肥料と日照で決まります。密植のまま肥料を控えて育てると、5年経っても2年目の太さで止まります。逆に、太らせるだけなら畑に下ろすのが最も早く、鉢の3倍で太ります。ただし根張りは荒れるので、掘り上げてから作り直す期間が要ります。
発芽しない・枯れるとき
- 種が出ない。 古い種、浮いた種、深くまきすぎ、発芽まで乾かした。種は採った翌春が最もよく出て、2年目から落ちます
- 発芽したあと地際から倒れて枯れる。 立枯病です。過湿と日照不足で出ます。用土を使い回さない、密にまきすぎない、発芽したら日に当てて風を通す。出た苗は抜いて捨て、周りに広げません
- ひょろ長く伸びて倒れる。 日照不足です。発芽したらすぐ日なたに出します
- 軸切り挿し芽で枯れる。 挿したあと乾かした、日なたに出すのが早かった、本葉が出てから切った。切る時期は子葉が開ききった頃で、遅れるほど付きが悪くなります
- 2年目以降、下葉から茶色くなる。 密植で内側に日が入っていません。間隔を空けます
よくある勘違い
早く形にしようとして切る。 実生の若木を芽切りや剪定で枝分かれさせようとすると、太らず、分かれもしません。小枝は力の乗った枝から出るもので、切って作るものではありません。太らせる期間は伸ばすだけです。
1年目から肥料を効かせる。 発芽したばかりの根は肥料で傷みます。1年目は薄い液肥だけ、固形肥料は2年目の鉢上げ後からです。
軸切りを本葉が出てから、あるいは根を残して切る。 本葉が出ると軸が硬くなって根が出にくくなります。根を残して植え直しても直根はそのまま残ります。切るのは根との境、時期は子葉が開ききった頃です。
密植のまま葉を減らして日を入れる。 太らせる途中の葉を減らすと、そのぶん太りません。日が入らないなら間隔を空けます。それができない置き場所なら、本数を減らします。
関連ページ
- 黒松の年間管理(一年の流れ)
- 黒松の芽切り(実生の若木に切らない理由。切れる木の見分け方)
- 赤松の年間管理(実生の手順は黒松と同じ。赤松のほうが樹勢が弱く、1年目の蓄えが薄い)
- 9月の盆栽の作業(実生の若木は切らずに伸ばす月)
この作業でやった記録
- 黒松と赤松の実生、40本の葉をほとんど落とした(2026年8月。2年目の黒松と当年生の赤松、密植のポット苗の葉を上に数枚残して落とした。上に書いた「密植のまま葉を減らさない」の逆をやっている。結果は来春の植え替えで根を見る)