ドアダッシュ(DASH)の2026年第3四半期決算。インスタカート買収170億ドルの契約書に、議決権ゼロのClass C株で払う選択肢と、独禁法で止まれば12.5億ドルの違約金
次の決算は2026年11月4日(米国時間・確定)、日本時間では11月5日の朝です。過去の発表日は2026年10月29日、8月5日、5月6日、2月18日。決算日の一覧
前の記事ドアダッシュ(DASH)の2026年第2四半期決算を一次ソースで読む。取扱高331億ドルのうち純利益は0.6%。インスタカート買収の報道で7営業日に13%安を10月27日に出した時、第3四半期の決算は11月4日と書きました。会社は10月28日に日程を繰り上げ、29日に決算とインスタカート(Maplebear)を買う契約を同時に出しました。前の記事で「会社は何も言っていません」と書いた所に、2日で答えが来たことになります。
使うのは、10月29日の第3四半期決算のプレスリリース、同じ日の合併の8-Kと添付の合併契約書・共同プレスリリース、株式の種類を確かめるための2025年通期の10-K、インスタカート側の第3四半期決算のプレスリリースです。決算説明会は29日に開かれましたが、書き起こしがまだ無いので、説明会の中身は読んでいません。
速報が書いているのは、売上46.2億ドルが予想を約1%上回ったこと、EPS 1.06ドルが予想の0.81ドルを大きく超えたこと、第4四半期の調整後EBITDAの予想が市場予想を下回ったこと、株価が寄り付きで7%前後上がったこと、そして「170億ドルでインスタカートを買う」。私は合併契約書の方を読みます。
前の記事で見ると書いた所
- Deliveroo を除いた取扱高の伸び: +23%。第2四半期と同じでした。会社は第4四半期からこの開示をやめると書いていて、上乗せが消えたかを確かめる数字が出なくなります。
- 第4四半期の予想: 取扱高354〜364億ドル、調整後EBITDA 9.0〜11.0億ドル。中央値で取扱高比2.8%、下限なら2.5%。第3四半期の3.1%から下がる、と会社が前回言っていた通りの形です。
- 食料品などの新しいカテゴリーが「下期に粗利プラス」になったか: プレスリリースに無い。食料品・小売の取扱高はレストランの2倍超の速さで伸びたとありますが、粗利の話は一行もありません。
- フェニックスで Dot が運んだ割合: 無い。前回は段落があったのに、今回は「autonomy」「autonomous」の単語が1回ずつ出るだけです。
- 法務・税務・規制の費用: 0.98億ドルから0.16億ドルに戻りました。インスタカートについては、買う契約を結びました。
今回の決算の数字
2026年第3四半期(7〜9月)です。括弧の中は Deliveroo を除いた伸び。
- 注文件数: 9.93億件、前年比+28%(+17%)
- 取扱高(Marketplace GOV): 339億ドル、+36%(+23%)
- 売上: 46.2億ドル、+34%(+23%)。取扱高に対する比率は13.6%。2025年第3四半期からの売上は34.5、39.6、40.4、44.5、46.2億ドル
- GAAP純利益: 4.66億ドル、前年比+91%、前の期の2.0億ドルから133%増。希薄化後EPSは1.06ドル(前の期0.46ドル)。取扱高に対する比率は1.4%で、ここ5四半期は1.0、0.7、0.6、0.6、1.4%
- 調整後EBITDA: 10.6億ドル、+41%。取扱高の3.1%(前の期2.8%)
- 費用の取扱高比: 配達の原価6.4%(前の期と同じ)、研究開発1.5%(前の期1.6%)
- フリーキャッシュフロー: 7.87億ドル。直近12か月で22.0億ドル
- 手元資金: 現金50.5億ドル、短期投資9.3億ドル、長期投資8.1億ドル。合わせて67.9億ドル。転換社債が27.3億ドル
- 自社株買い: 今年に入って10月28日までに680万株、10.0億ドル
純利益が0.6%から1.4%になった中身
前の記事のタイトルに「純利益は0.6%」と書いた数字が、1四半期で1.4%になりました。中身はGAAPの表で追えます。法務・税務・規制の費用が0.98億ドルから0.16億ドルへ。株式報酬が3.49億ドルから2.69億ドルへ。販売費と研究開発費も前の期から7%ずつ減りました。売上は4%増えて費用が減ったので、営業利益は1.56億ドルから4.42億ドルになっています。
調整後EBITDAの伸びが前の期比+16%なのに純利益が+133%なのは、EBITDAが足し戻している項目(法務費用、株式報酬)が減ったからです。足し戻す前の方が良く見えますが、費用の一時的な減少が理由なら、戻る時も同じ速さで戻ります。
もう一つ、動かなかった数字があります。自社株買いです。前の記事では「8月5日までに680万株、10.5億ドル」。今回は「10月28日までに680万株、10.0億ドル」。株数が同じなので、8月5日から10月28日まで1株も買っていません。現金を温存していたという読みは私の推測で、買収の協議がいつ始まったかは資料に無い。
契約書には、議決権ゼロの株で払う選択肢がある
買収の値段は1株65ドル、株式価値で約170億ドル。インスタカートの株主は、1株につき「現金65ドル」「ドアダッシュ株0.3372株」「現金48.75ドルと0.0843株」から選べますが、株で受け取れるのは全体の25%まで。つまり最低でも127.5億ドルは現金で払う。手元の67.9億ドルでは足りないので、JPMorgan から364日の無担保のつなぎ融資130億ドルの約束を取っています。返し方は「現金と、社債か借入による恒久的な資金で置き換える」とだけ書いてあります。
ここまでは共同プレスリリースにもあります。契約書の第1.07条(d)とExhibit Cにしかないのが、株の部分の払い方です。ドアダッシュは2027年3月31日(またはクロージングの3か月前)までに、株の部分を Class A 株ではなく Class C 株で払うと選べます。条件は2つ。Class C をナスダックに上場させること、そして既存の Class A と Class B の株主全員に、1株につき0.5株以上の Class C を配当すること。
Class C が何かは10-Kにあります。Class A は1株1票、Class B は20票、Class C は議決権ゼロ。Class B は創業者3人だけが持ち、3人で議決権の55%です。10-Kには「Class C を発行する計画は今のところ無い。将来、資金調達や買収に使えるようにしてある」とあります。170億ドルの25%、最大42.5億ドル分を Class A で払えば議決権のある株が増えて55%は薄まる。Class C なら薄まりません。配当で全株主に Class C を持たせるのは、新しい株に値段が付く市場を先に作るためです。どちらの株を渡すかは、ドアダッシュが決めます。
独禁法で止まれば12.5億ドル、終了日は最長2年後
クロージングの見込みは「2027年末か2028年上期」。契約から14〜18か月後です。契約書の終了日は12か月後ですが、独禁法の条件だけが残っていれば3か月ずつ4回まで自動で延びるので、最長で2028年10月まで待てる形です。認可は米国のほかカナダとイスラエルでも要ります。インスタカートの株主の約19%が賛成に投票すると契約済みです。
違約金は非対称です。インスタカートが別の相手を選ぶなどで降りれば6.5億ドルをドアダッシュに払う。独禁法の認可が下りずに終われば、ドアダッシュがインスタカートに12.5億ドルを払う。買収額の7.4%、今回の四半期の純利益の2.7倍です。2025年に Deliveroo を買った額が37億ドルでしたから、その3分の1を「審査に落ちた時の保険料」として差し出している。10月26日の Semafor の記事は、現政権下では独禁の問題は小さいが、来月の選挙の結果で窓が閉まるかもしれない、と書いていました。終了日を2年取ったのは、その窓の向こう側まで見ているからだ、と私は読みました。
買う相手のインスタカートの第3四半期は、取扱高105億ドル(+15%)、売上10.95億ドル(+17%)、調整後EBITDA 3.42億ドル、純利益1.47億ドル。純利益の取扱高比は1.4%で、今回のドアダッシュと同じです。170億ドルは、この四半期の調整後EBITDAを4倍した額の約12倍です。
会社が言うシナジーは「複数年かけて年5億ドル以上、投資を差し引いた純額」。ただし「初年度は総シナジーの100%以上を投資する」ので、1年目に利益は増えません。「DashPass と Instacart+ の会費が1つになり、年1億ドルの節約」は、会員から取らなくなる1億ドルでもあります。前の記事で引いた「会員が増えるほど粗利率は下がる」の続きです。
株価は、米国市場が開いた直後の29日の数字です。ドアダッシュは178.18ドル、前日の169.49ドルから5%高。インスタカートは57.76ドルで、現金65ドルの提示より11%安い。市場は、65ドルが届くのは1年以上先で、届かないかもしれない、と値付けしています。
次の決算で見る所
第4四半期の決算の日付は資料にありません。
- Class C で払う選択をするかどうか。期限は2027年3月31日。選べば、その前に Class C の配当と上場がある
- 登録届出書(S-4)に出る、交渉の経緯とインスタカート側の予測の数字
- 自社株買いが再開するか。8月5日から止まっている
- 法務・税務・規制の費用が0.16億ドルのままか
- Deliveroo を除いた開示が無くなった後の取扱高の伸びと、Dot の話が戻ってくるか
説明会で分かったこと(10月30日に追記)
書き起こしは、会社自身が同じ日の夕方にSECへ出しました。合併に関わる発言は425という書式で届け出る決まりがあるためで、有料の書き起こしを待つ必要はありませんでした。読んで最初に分かるのは形式です。CEOとCFOの冒頭説明が無く、IRの担当者が注意事項を読んだ直後に質疑に入っています。アナリスト10人の質問に答えた分だけが中身で、聞かれなかったことは何も語られていません。
前の記事で見ると書いた所から。新しいカテゴリーの粗利について、CFOのRavi Inukonda氏は「数回前の説明会で、年内に粗利プラスになると言った。かなり近い所まで来ていて、粗利の損益分岐にほぼ届いている」と答えました。まだプラスではない、と私は読みます。Deliverooは、CEOのTony Xu氏が「第3四半期は、買収前の1年前の2倍の速さで伸びた」と言い、レストラン事業は第2四半期から加速して、前の期からの伸び率は5年余りで最も速かったとCFOが補いました。フェニックスのDotの話は、CEOが「地上の車両とドローンの両方に深く投資している」と言った一文だけで、数字はありません。法務費用と、速報が市場予想を下回ったと書いた第4四半期の見通しは、誰も聞かず、会社も触れませんでした。
自社株買いは、MoffettNathansonのアナリストが「買い戻しに規律のある会社が、なぜ現金だけでなく株を使うのか」と聞きました。CFOの答えは「希薄化は気にしている。インスタカート側が株を一部受け取って上値に参加したいと望んだ。買い戻しの考え方は変わっておらず、保守的に、よい投資になるなら今後も買う」でした。8月5日から止まっている理由も、再開の時期も出ていません。契約書で私が一番気になった議決権ゼロのClass C株は、質問にも答えにも一度も出てきません。
買収の話で新しく出た数字は三つあります。シナジー年5億ドル以上の時期について、CFOが「1年目は投資、2年目に進展、3年目に投資を差し引いた5億ドルが利益に乗る」とモデルの置き方を示しました。出所として挙げたのは、レストランをインスタカートに載せる相互出店、CPGメーカーの広告、インスタカートの小売向けソフトの販売、DashMartの配送受託、配達員の密度、販売費と顧客対応の費用です。DashMartから出す配達は注文の正確さがほぼ完璧で、他社の店から出す配達は90%台前半だとCEOが言い、在庫を自分で持つ理由をここに置いています。外部のAIエージェント経由の注文は「合計で数百件」だとCEOが二度繰り返しました。
独禁法については、Needhamのアナリストが「何をもって審査を通ると判断したか」、BofAのアナリストが「食料品のシェアを規制当局にどう説明するか」と聞きました。CEOの答えは「大手がパイを食べ続けている業界で、あらゆる規模の小売に戦う機会を与えるのは公正なこと」という筋で、シェアの数字も、審査機関の名前も、12.5億ドルの違約金も出ていません。インスタカートの食料品の規模を聞かれたCFOは「公開情報なので、インスタカートについては何も話さない」でした。
ほかに、技術基盤の統一は費用も日程も予定どおりで2027年上期に終わる見込み、インスタカートをその基盤に載せる投資は「巨額ではない」とCFOが言いました。Costcoを品揃えに加えたこと、インスタカートのブランドは残すこと、DashPassの今の料金で両方の会員制度を使えるようにすることも出ました。
使った資料
- DoorDash 2026年第3四半期決算プレスリリース(Form 8-K Exhibit 99.1、2026年10月29日)
- DoorDash Form 8-K、インスタカート買収の契約(2026年10月29日)
- 合併契約書(Exhibit 2.1、2026年10月28日)
- 議決権契約の雛形(Exhibit 10.1)
- DoorDash と Instacart の共同プレスリリース(Exhibit 99.1)
- DoorDash Form 10-K(2025年度)
- Instacart(Maplebear)2026年第3四半期決算プレスリリース(Form 8-K Exhibit 99.1、2026年10月29日)
- DoorDash in exclusive talks to acquire Instacart(Semafor、2026年10月26日)
- 速報の例: DoorDash Q3 2026 beats on revenue(StockStory)
- DoorDash、2026年第3四半期 決算説明会の書き起こし(Form 425、2026年10月29日)
組入比率は投資信託のデータと同じ2026年9月30日の月次レポートです。株価は書いた日のものです。
契約書を400KB読んで残ったのは、170億ドルという値段より、議決権ゼロの株を配当で全員に持たせるという一文の方でした。