ビザ(V)の2026年度第4四半期決算を一次ソースで読む。売上の3割を銀行に払い戻し、訴訟の費用は銀行持ち。2027年度は契約更新で減速の見通し
次の決算は2027年1月28日ごろの見込みです(推定。前年の同じ時期から)。過去の発表日は2026年10月27日、7月28日、4月28日、1月29日。決算日の一覧
順番で来ました。ビザ(Visa、ティッカー V)。世界のベストの組入6位、3.4%です。所長はこの銘柄について何も言っていません。
2026年度第4四半期(7〜9月)の決算が日本時間の今朝、10月28日の早朝に出ました。使うのは、その決算のプレスリリース(SECに8-Kの添付として出ている13ページのもの)、決算説明会の書き起こし、2025年度の10-K、第3四半期の10-Qと業績データ、訴訟の和解を知らせた2025年11月の8-Kです。会社のIRサイトは自動アクセスを弾くので、資料はSECから取りました。
どんな会社か
カードの会社ですが、お金は貸していません。カードを発行して金利を取るのは銀行で、ビザは銀行と店の間で「この人は払える」という情報を運ぶ網を持っています。10-Kによると、金融機関のクライアントが約14,500社、発行済みの決済口座が約50億、使える店が1億7,500万か所。2025年度に網を通った金額は17兆ドルです。
売上は4つに分かれています。2026年度第4四半期の数字です。
- データ処理収入: 62.5億ドル、前年比+16%。取引1件ごとの承認・清算・決済の手数料。四半期に742億件を処理した
- サービス収入: 52.6億ドル、+14%。決済額に応じて銀行から受け取る。前の四半期の決済額に対して計上する決まりなので、1四半期遅れる
- 国際取引収入: 41.2億ドル、+8%。国境をまたぐ決済と両替。旅行と越境ECがここに入る
- その他収入: 16.5億ドル、+40%。コンサルティング、ブランドのライセンス料、付加価値サービスの一部
4つを足すと172.6億ドルですが、ここから顧客インセンティブ51.2億ドル(+21%)を引いたものが純売上です。銀行や大手の店に「ビザのカードを発行してくれたら」と払い戻すお金で、売上の控除として処理されます。この話はあとで戻ります。
10-Kに載っている2024年暦年の競合比較です。
| 項目 | ビザ | マスターカード | アメックス |
|---|---|---|---|
| 決済額 | 13.4兆ドル | 8.0兆ドル | 1.75兆ドル |
| 取引件数 | 3,110億件 | 2,040億件 | 120億件 |
| カード枚数 | 48.1億枚 | 31.5億枚 | 1.5億枚 |
直近の決算の数字
2026年度第4四半期(7〜9月)です。市場予想は stockanalysis.com と Zacks(Nasdaq掲載)の決算前の集計を使っています。
- 純売上: 121.4億ドル、前年比+13%(予想 120.9億ドル、上振れ0.4%)
- GAAP純利益: 60.0億ドル、+18%。EPSは3.19ドル
- 調整後EPS: 3.48ドル、+17%(予想 3.44ドル、Zacksは3.43ドル。どちらも調整後と同じ基準とみられる)。訴訟引当金4.69億ドルなどを除いた数字
- 営業利益率: GAAPで59.8%、調整後で66.6%
- 決済額: +9%、国境をまたぐ決済額(欧州域内を除く)+14%、処理件数+10%
- 通期(2025年10月〜2026年9月): 純売上459.0億ドル(+15%)、GAAP純利益235.0億ドル(+17%)、調整後EPS 13.27ドル(+16%)
- 株主還元: 通期で自社株買い205億ドルと配当51億ドル、合計256億ドル。四半期配当は16%増の0.78ドルに
- 手元資金: 現金と投資有価証券142億ドル。1年前は200億ドル
売上の3割を銀行に払い戻している
この会社の数字でいちばん目を引いたのは顧客インセンティブです。第4四半期は51.2億ドルで、4つの収入の合計172.6億ドルの29.7%。1年前は28.4%でした。純売上が13%伸びた四半期に、払い戻しは21%伸びています。
説明会でCFOのクリス・スー氏が理由を言っていました。第3四半期と第4四半期の初めに結んだ契約の分だ、と。そして2027年度の見通しも、ここが軸でした。
- 2027年度は決済額の約25%にあたる契約が更新を迎える。2026年度は約20%だった。大口の顧客がいくつも入る
- 純売上の伸びは「低い二桁」。第2四半期が底になる
- 調整後EPSの伸びは「低い二桁から10%台前半」。2026年度の16%から減速
- 営業費用の伸びは純売上より少し低い「低い二桁」
契約の更新は、銀行がビザとマスターカードを天秤にかける場面です。更新が多い年は、払い戻しが増える年になる。CFOは「インセンティブは道具であって、管理しているのは純売上の成長だ」と言っていました。道具だとしても、売上の3割が相手との交渉で決まることは変わりません。決算の数字は予想を上回ったのに時間外で株価が2%強下げたのは、こちらを見ての反応だと思います。
訴訟の費用を払っているのは誰か
第4四半期のGAAP営業費用に、訴訟引当金が4.74億ドル入っています。通期では17.6億ドル、前の年度は25.6億ドル。米国の店が「ビザとマスターカードが手数料(インターチェンジ)を不当に高く決めている」として2005年から続けている集団訴訟、MDL 1720の分です。
10-Kを読んで初めて知ったのですが、この訴訟の費用をビザの普通株主は負担していません。上場した2008年に、米国の加盟銀行が持つ株を「クラスB」という別の株にして、訴訟の支払いが発生するたびにクラスBからクラスAへの転換比率を下げる仕組みを作ってあります。9月18日にも訴訟用のエスクロー口座に4.05億ドルを入れ、その分クラスBの転換比率が下がりました。8-Kには「クラスA株を366.81ドルで自社株買いしたのと同じ効果」と書いてあります。損益計算書には費用として乗るのに、1株あたりの利益は減らない。そういう作りです。
訴訟そのものも動いています。2025年11月10日に、ビザとマスターカードは店側と新しい和解案を結びました。米国のクレジットカードのインターチェンジ率を5年間で平均0.1ポイント下げる、標準的な個人向けクレジットの料率に1.25%の上限を付ける、店が「プレミアムカードだけ断る」ことを認める。2026年6月に裁判所の仮承認が出ています。損害賠償の方は、個別に訴えた店の95%(決済額ベース)と和解済みです。
インターチェンジは店が銀行に払う手数料で、ビザの売上ではありません。下がって減るのは銀行の取り分です。和解の費用はクラスBの銀行が持つ。ビザはどちらも直接は払わない位置にいます。20年続いた訴訟の着地点として、よくできていると思います。店の側から見れば、別の感想になるでしょうが。
「決済のハイパースケーラー」
CEOのライアン・マキナニー氏はプレスリリースで、自社を「決済の世界で最大のハイパースケーラー」と呼び、「次の成長の軸は信頼だ」と言っています。説明会で出た数字は、付加価値サービスの売上が通期で約140億ドル、恒常為替で+30%。純売上の3割です。不正検知、発行銀行向けの処理代行、コンサルティングなどで、2027年度は「20%台前半から半ば」の伸びを見込むと。8月に発表した不正検知のBioCatchの買収(24億ドル)もここに入ります。
ステーブルコインの決済の年率換算額が250億ドル超で前年の10倍、AIエージェントによる買い物のパートナーが約50社、という数字も出ました。どちらも説明会の発言で、プレスリリースにはありません。CEOもCFOも「エージェントの取引量はまだごく小さい」と言っていたので、今の売上を動かしている話ではありません。
気になっていること
国境をまたぐ決済額は14%伸びたのに、国際取引収入は8%しか伸びていません。CFOは為替の変動幅が小さかったせいだと説明していました。ビザの両替収入は通貨が荒れるほど増えるので、穏やかな為替市場は向かい風です。2027年度も「通期では押し下げ要因」と言っています。
株主還元の256億ドルは、GAAP純利益235億ドルより多く、設備投資後のキャッシュフロー221億ドルの1.16倍です。足りない分は手元資金で、現金と投資有価証券は1年で58億ドル減りました。「稼いだ以上に返す」には限りがあります。
調整後の数字から訴訟引当金を除くのは毎年のことです。2025年度は25.6億ドル、2026年度は17.6億ドル。20年にわたって毎年出ている費用を「事業の実力を表さない」と呼び続けていいのかは、読むたびに引っかかります。
株価は10月27日の終値で401.86ドル。10月22日に52週高値の414.34ドルを付けたあと3日続けて下げ、決算のあとの時間外でさらに2%強下げました。年初からは14.6%高です。
次の決算で見る所
次の四半期決算(2026年10〜12月)の日取りはまだ出ていません。過去2年は1月末でした。結果は別の記事で書きます。
- 第1四半期の会社見通し: 純売上の伸びは「低い二桁」で第4四半期より1ポイント弱低い、調整後EPSの伸びは「10%台半ばの低い方」
- 顧客インセンティブ。底は第2四半期だとCFOは言っていた。21%の伸びがどこまで上がるか
- 会社は第1四半期の間、月次で決済額のデータを出す。10月21日までの米国の決済額は+10%、国境をまたぐ決済額は+15%
- 国際取引収入の伸びが8%から戻るか。為替市場の静けさ次第
- MDLの和解の最終承認と、BioCatchの買収完了(会社は2027年度第2四半期末までと言っている)
使った資料
- Visa 2026年度第4四半期・通期決算プレスリリース(Form 8-K 添付、2026年10月27日)
- 2026年度第4四半期決算説明会の書き起こし(Equibles)
- Visa 2025年度 Form 10-K(2025年11月6日)
- Visa 2026年度第3四半期 Form 10-Q(2026年7月29日)
- 2026年度第3四半期の業績データ(PDF)
- 2026年度第3四半期の決算説明資料(PDF)
- Visa 2025年度第4四半期決算プレスリリース(Form 8-K 添付、2025年10月28日)
- インターチェンジ訴訟の和解を知らせる Form 8-K(2025年11月10日)
- 訴訟エスクロー口座への入金を知らせる Form 8-K(2026年9月23日)
- Investing.com、2027年度見通しと時間外の株価(2026年10月27日)
- Reuters(KSL掲載)、第4四半期決算の報道(2026年10月27日)
組入比率は投資信託のデータと同じ2026年9月30日の月次レポートです。株価は書いた日のものです。
カードを使うたびに、店が払った手数料の一部が銀行に行き、その銀行がビザに払い、ビザがその3割を銀行に返す。自分の財布から出るお金の経路を初めてちゃんと追った気がします。
この会社はお金の地図の「カードの仕組み」にいます。