スタンダードチャータード(STAN)の2026年第3四半期決算を一次ソースで読む。稼ぎの半分は金利以外、富裕層の新規資金は四半期200億ドル、予想は3回上げ

過去の発表日は2026年10月28日。決算日の一覧


順番で来た銘柄です。世界のベスト(インベスコ 世界厳選株式オープン<為替ヘッジなし>毎月決算型)の組入10位、2.6%。ロンドン上場なので、ロールス・ロイスやAIAの回と同じく、所長の日報には株価が出ません。所長はこの銘柄について何も言っていません。

間が良い回でした。書く前日の10月28日、英国時間の朝4時に第3四半期(7〜9月)の決算が出ています。使うのは、その決算の発表(33ページ)と説明会のスライド、比べるために7月29日の第2四半期の説明会の書き起こし、上期報告書(渤海銀行の注記だけ)、2月24日の2025年通期決算です。第3四半期の説明会の書き起こしはまだ会社のサイトに無く、取りに行ったら403で弾かれました。だからこの記事には、今回の質疑が入っていません。

どんな会社か

本社はロンドンですが、稼いでいる場所はアジアと中東とアフリカです。7〜9月の売上(銀行なので正しくは営業収益ですが、この記事では売上と書きます)57.8億ドルのうち、香港が15.3億ドルで26%。次がシンガポール8.1億ドル、英国5.5億ドル、インド3.7億ドル、韓国3.3億ドル、米国3.2億ドル、中国3.1億ドル、UAE 2.9億ドル、台湾1.6億ドルです。英国の5.5億ドルは前年の3.6億ドルから5割増えていますが、資料は国ごとの中身を書いていないので、何が増えたかは分かりません。

スタンダードチャータード 国・地域別の売上(2026年7〜9月)全社57.8億ドル。その他の国の合計11.2億ドルは除く香港15.3億ドルシンガポール8.1億ドル英国5.5億ドルインド3.7億ドル韓国3.3億ドル米国3.2億ドル中国3.1億ドルUAE2.9億ドル台湾1.6億ドル出所: Q3 2026 Results(Performance by key market)

事業は2つです。

  • 法人・投資銀行(CIB): 売上33.9億ドル。企業の決済・貿易金融・証券保管を請け負う「トランザクション・サービス」16.1億ドル、為替や金利の取引を顧客に提供する「グローバル・マーケッツ」10.1億ドル、融資と債券の引受の「グローバル・バンキング」6.3億ドル
  • 個人・富裕層(WRB): 売上25.3億ドル。投資商品と保険を売る「ウェルス・ソリューションズ」11.2億ドル、預金と住宅ローン10.4億ドル、カードと無担保ローン2.7億ドル
  • 本社・その他: 売上はマイナス1.4億ドル。2つの事業の合計が全社より大きいのはこのためです

金利で稼いだ分(純金利収入、会社の調整後)は29.7億ドル、手数料や取引で稼いだ分は28.2億ドル。売上の半分近くが金利以外で、ここがこの記事の軸です。

第3四半期の数字

前年比は会社の書き方に合わせて為替を固定したものです。

  • 売上: 57.8億ドル、前年比+14%。金利収入+9%、金利以外+19%
  • 経費: 34.1億ドル、+9%。経費率(経費÷売上)は59.0%で、前年同期の61.5%から2.5ポイント改善
  • 貸倒引当: 0.9億ドル。前年同期の1.9億ドルから半減。年率の貸倒率は9ベーシスポイント
  • 税引前利益: 22.5億ドル、+29%
  • 1株利益: 68.9セント、+55%。純利益の伸び(+36%)より大きいのは、自社株買いで株数が1年で5%減ったから
  • 有形株主資本利益率(RoTE): 15.7%。前年同期は10.5%。1〜9月では17.0%
  • 資本: CET1比率13.8%。会社が目安にする13〜14%の上の方
  • 貸出と預金: 貸出3,152億ドル(+11%)、預金5,583億ドル(+6%)
スタンダードチャータード 四半期の売上と、資産運用が占める割合2024年10〜12月から2026年7〜9月まで。10〜12月は毎年低い020406080100億ドル4824Q453.825Q155.325Q251.125Q349.325Q45926Q15726Q257.826Q311.7%14.5%13.4%17.4%13.7%17.7%18.7%19.3%7%15.5%24%売上資産運用(Wealth Solutions)の割合出所: Q3 2026 Results(Quarterly operating income by product)。2025年以前は会社が組み替えた数字

利益が29%増えた中身

伸びたのは3つです。ウェルス・ソリューションズ(投資商品と保険)が11.2億ドルで+26%、3四半期連続の過去最高。グローバル・マーケッツが10.1億ドルで+21%。それと貸倒引当が半減したこと。法人向けでは引き当ての戻し入れが上回って、0.2億ドルの戻し入れになりました。

スタンダードチャータード 商品別の売上、前年の同じ四半期との比較2025年7〜9月と2026年7〜9月。伸びたのは資産運用と市場取引、減ったのは個人向けの貸出2025年7〜9月2026年7〜9月資産運用(投資商品・保険)8.9億ドル11.2億ドル市場取引(為替・金利)8.5億ドル10.1億ドル決済・貿易金融・保管14.9億ドル16.1億ドル預金・住宅ローン10.4億ドル10.4億ドル法人融資・債券引受5.9億ドル6.3億ドルカード・無担保ローン3.1億ドル2.7億ドル出所: Q3 2026 Results(Operating income by product)

伸びていない所も、同じ表に出ています。預金と住宅ローンは10.4億ドルで-1%。理由として会社が挙げたのが香港の住宅ローンで、金利の上限が最優遇貸出金利(ベスト・レンディング・レート)に結び付いているため、調達金利が上がっても貸出金利を上げられなかった、と書いています。その先の仕組みは資料に無く、私もここで止めました。カードと無担保ローンは2.7億ドルで-13%。こちらは「審査を厳しくし、戦略から外れたポートフォリオを縮小・撤退した」と会社が自分で言っていて、減らしているのは会社です。

つまり、金利で稼ぐ側の個人向けは縮めて、手数料で稼ぐ富裕層向けに寄せている。ウェルス・ソリューションズは2024年10〜12月には売上の12%でしたが、この四半期は19%です。

富裕層の新規資金、四半期で200億ドル

会社が決算のたびに最初に出す指標は、富裕層の顧客から新しく入った資金(ネット・ニュー・マネー)です。7〜9月は200億ドルで過去最高。1〜9月で520億ドルで、年初の預かり資産4,470億ドルに対して年率16%の伸びにあたります。新しく口座を開いた富裕層は四半期で7万6,000人、前の四半期と同じペースです。2025年から2028年までに2,000億ドルという目標を出していて、7月の説明会では6四半期で約840億ドル、今回の200億ドルを足すと7四半期で半分です。

ただ、預かり資産は4,720億ドルで前の四半期から横ばいです。理由は「顧客が運用の委任から保管に口座の中身を移したことが、新規資金の増加をほぼ相殺した」。200億ドル入って残高が増えないのは、手数料の元になる資産が思ったほど積み上がっていない、ということでもあります。新規資金の200億ドルのうち約50億ドルは、インドの非居住者向け外貨預金の制度(FCNR)からの流入です。

予想を1年で3回上げた

2026年の見通しを、2月、7月、10月と、出すたびに上げています。

時期 売上の伸び 金利収入 RoTE
2月 5〜7%の下限あたり 横ばい 12%超
7月 5〜7%の中ほど 低い1桁% 12%超
10月 5〜7%を上回る 約4% 14%前後

7月の説明会で、アナリストが「額面どおりに受け取ると下期の金利収入は上期と横ばい、金利以外はコンセンサスを下回る。控えめすぎないか」と聞いています。CEOのビル・ウィンターズ氏の答えは「12%『超』の超が肝心」「この環境で四半期ごとに微調整するのは賢明でない」でした。3か月後に上げたので、アナリストの読みのほうが当たっていたことになります。

今回の「14%前後」も同じ読み方ができます。1〜9月のRoTEは17.0%。通期で14%前後になるには、10〜12月の利益が7〜9月の3分の1くらいまで落ちる計算です。この銀行の10〜12月は毎年弱く、2025年は売上49.3億ドル(7〜9月は51.1億ドル)に対して報告ベースの税引前利益は8.1億ドル(7〜9月は17.7億ドル)でした。2025年の10〜12月は経費が7〜9月より16%多く、構造改革の費用も乗りました。今年の10〜12月に何が乗るかは、今回の資料に書いてありません。

5月に出した中期目標は、2028年にRoTE 15%超、2030年に18%前後、1株利益は2025〜2028年に年10%台後半の伸び。7〜9月の15.7%は、2028年の目標をもう超えています。

気になっていること

1つ目は渤海銀行です。中国の銀行に16.26%を出資していて、持分法で利益を取り込む建前ですが、上期報告書の注記を読むと、2025年10〜12月の持分利益0.26億ドルと2026年上期の0.92億ドルを利益に入れていません。帳簿価額10.2億ドルに対して市場価格は2.7億ドルで、「中国のマクロ環境と配当再開の見通しがはっきりするまで減損は続く」と書いてあります。減損の累計は15.8億ドル。今回の「関連会社の損失0.23億ドル」も、スライドの脚注に「渤海の利益の扱いが続いている」と一言あるだけです。

2つ目は、本社部門の経費に入った0.45億ドルの引当です。「旧事業の過去の取引に関する法的措置の可能性」とだけ書いてあり、何の取引かは分かりません。

3つ目は中東です。エクスポージャーの7%が中東で、紛争に備えた引当の上乗せは7〜9月で0.34億ドル、1〜9月で2.68億ドル。引当の計算で使う「悪い方のシナリオ」の重みを、2025年末の41%から60%に上げました。基本シナリオは59%から40%です。悪い方を6割で見ている銀行の貸倒率が9ベーシスポイントというのは、引き当てが効いているのか、まだ何も起きていないだけなのか、この資料では分かりません。

株価は10月28日のロンドンの終値で2,068ペンス。決算の日に2.4%上げました。52週高値は2,364ペンス、安値は1,471.5ペンスで、1年で株数が5%減った会社の株価が、安値から4割上の所にいます。

次の決算で見る所

次は2027年2月19日の通期決算です(会社の予定表で、変更の可能性あり)。

  • 通期のRoTEが本当に14%前後で終わるか、それとも10〜12月の利益が去年ほど落ちないか
  • 新しい自社株買いの額と期末配当。7月の10億ドルは9月末までに4.84億ドルを使い終えていて、CET1が13.8%なら次も出せる
  • ウェルス・ソリューションズが4四半期連続の最高になるか。新規資金に対して預かり資産が増えるか
  • 金利収入の通期+4%が達成できたか。会社は「10〜12月も同じ傾向、ただし残高の伸びは鈍る」と言っている
  • 渤海銀行の減損と、中東の引当の積み増しが続くか

使った資料

組入比率は投資信託のデータと同じ2026年9月30日の月次レポートです。株価は書いた日のものです。

予想を3回上げて、3回とも超えた会社の「14%前後」を、どこまで信じるか。私は数字より、10〜12月に何を載せるつもりなのかを先に知りたいです。

この会社はお金の地図の「銀行」にいます。