テキサス・インスツルメンツ(TXN)の2026年第3四半期決算を一次ソースで読む。粗利率64%とフリーキャッシュフロー84億ドルは、何で出来ているか

次の決算は2027年1月26日ごろの見込みです(推定。前年の同じ時期から)。過去の発表日は2026年10月21日、7月22日、4月22日、1月27日。決算日の一覧


順番で来た銘柄です。世界のベストの組入9位、3.0%。所長はこの銘柄について何も言っていません。

書く日の2日前、10月21日に第3四半期の決算が出ていました。使うのは、その日の決算のプレスリリース(SECに出た8-Kの添付)、7月22日の第2四半期のプレスリリース、2025年の年次報告書(10-K)、9月17日の増配の発表、SECのXBRLデータです。決算説明会は会社の書き起こしが無いので、公開の音声を機械で書き起こしたものを補助に使い、引く所はその旨を書きます。

どんな会社か

アナログ半導体の会社です。マイクロンやTSMCの記事で見てきた「先端」の反対側にいて、電源の電圧を変える、センサーの信号を増幅してデジタルに直す、モーターを回す、といった地味な部品を8万種類以上作り、10万社以上に売っています。年次報告書によると、売上の半分は上位50社以外の顧客から来ています。1社だけ売上の12%を占める顧客がいますが、名前は書いていません。

2025年の売上176.8億ドルの内訳です。

  • アナログ: 140.1億ドル、売上の79%。電源(Power)と信号処理(Signal Chain)の2本立て
  • 組み込みプロセッシング: 27.0億ドル、15%。マイコンや車載レーダーのような「頭脳」側。顧客が自分でソフトを書いて載せるので、世代が変わっても乗り換えにくい
  • その他: 9.8億ドル。プロジェクター用のDLP、電卓、カスタムIC

売り先は産業機器33%、車載33%、パーソナル機器21%、データセンター9%、通信機器3%、電卓1%(2025年)。地域は米国38%、中国21%、欧州・中東・アフリカ21%(うちドイツ10%)、日本7%です。

もう一つの特徴は、自分で工場を持っていることです。ファウンドリに出さず、テキサス州のリチャードソンとシャーマン、ユタ州のリーハイに300mmウエハーの工場を建ててきました。300mmで作ると、パッケージ前のチップ1個の原価が200mmより約40%安い、と年次報告書に書いてあります。この6年間の設備投資はそのためのもので、2025年に45.5億ドル、2024年に48.2億ドルを使っています。

テキサス・インスツルメンツ 部門別の売上(2026年第3四半期)アナログ49.1億ドル組み込みプロセッシング8.6億ドルその他(DLP、電卓、カスタムIC)2.9億ドル出所: 決算プレスリリース

直近の決算の数字

2026年第3四半期(7〜9月)です。

  • 売上: 60.6億ドル、前年比+28%、前期比+11%。stockanalysis.com の予想59.1億ドルを2%上回り、7月に会社が出した予想56.5〜61.5億ドルの上の方に入った
  • 部門別: アナログ49.1億ドル(+32%)、組み込みプロセッシング8.6億ドル(+21%)、その他2.9億ドル(-6%)
  • 粗利率: 64.2%。前年は57.4%、前の四半期は61.4%。2025年通年は57.0%
  • 営業利益: 28.7億ドル、前年比+73%。営業利益率47.5%
  • EPS: 2.62ドル、前年比+77%。会社予想2.23〜2.57ドルの上限を超えた。stockanalysis.com の予想2.42ドルに対して+8%、Nasdaq に載る Zacks の集計2.40ドル(最高2.48)も上回った。TIは調整後EPSを出さない会社ですが、予想の側は前年を1.57ドルとしていて、GAAPの1.48ドルとの差は前年のリストラ費用8,500万ドルに相当します。今期の一時費用は買収費用700万ドルだけなので、そのまま比べてよい差です
  • 営業キャッシュフロー: 四半期34.2億ドル、12か月で99.0億ドル
  • 設備投資: 四半期4.6億ドル、12か月で25.8億ドル。四半期の減価償却5.6億ドルより少ない
  • フリーキャッシュフロー: 12か月で84.2億ドル、売上の40.6%。前年の同じ12か月は24.2億ドル、14.0%
  • 株主還元: 12か月で配当51.7億ドル、自社株買い6.4億ドル。配当は9月に7%増やして四半期1.52ドル、23年連続の増配
  • 手元資金と借入: 現金と短期投資81.4億ドル、借入135.6億ドル。四半期中に5億ドル返済
  • 在庫: 46.7億ドル、194日分。前の四半期から2日減。2025年末は222日、2024年末は241日
テキサス・インスツルメンツ 四半期の売上と粗利率2024年第4四半期から2026年第3四半期まで。第4四半期の会社予想は売上58.0〜63.0億ドル020406080100億ドル40.124Q440.725Q144.525Q247.425Q344.225Q448.326Q154.626Q260.626Q357.7%56.8%57.9%57.4%55.9%58%61.4%64.2%51%60%69%売上粗利率出所: SECのXBRLデータ、決算プレスリリース

粗利率64%は、どこから来たか

半年前の第1四半期の粗利率は58.0%でした。2四半期で6ポイント上がっています。説明会で最初に質問したアナリストが「増えた売上に対する粗利の増分が約90%」と言っていて、計算すると確かにそうです。第2四半期から第3四半期に売上は5.9億ドル増え、粗利は5.4億ドル増えました。

CFOの答えは「主に売上が増えたから。価格と稼働率と製品構成の分も少しある」でした。年次報告書にもっと率直な説明があります。自前の工場を持っているので費用の大部分が固定費で、工場の稼働が下がれば利益率は下がり、上がれば上がる。2025年の粗利率が57%だったのは、需要が戻る前に工場を建て終えて、固定費だけ先に乗っていたからです。今はその逆回転で、同じ工場に注文が入っているだけで利益率が上がります。

価格はどうか。CEOは「2026年上半期は前年と同じ水準、下半期にアナログで少し上がった。今年の分としては大きくない」と言いました(機械の書き起こしから)。2027年の価格交渉は始まっていて、結果は1月の決算で話す、とのことです。つまり今の64%は、ほぼ数量で出来ています。

フリーキャッシュフロー84億ドルの中身

12か月のフリーキャッシュフローが24.2億ドルから84.2億ドルに、3.5倍になりました。会社はこれを「事業モデルの強さ、製品群の質、300mm生産の効果」と、7月も10月も同じ文で説明しています。分けると3つです。

  • 営業キャッシュフローが69.0億ドルから99.0億ドルに増えた。これは利益の分
  • 設備投資が48.2億ドルから25.8億ドルに減った。22億ドル分は、定義上そのまま上に乗る
  • CHIPS法(米国の半導体補助金)の入金が3.4億ドルから11.0億ドルに増えた。TIのフリーキャッシュフローの定義は「営業キャッシュフロー−設備投資+CHIPS法の入金」で、補助金を足す定義です。税額控除も合わせるとCFOは「12か月で16億ドル」と言いました

つまり84億ドルのうち、工場を建て終えて設備投資を減らした分と、補助金が増えた分で、3分の1強です。会社は「フリーキャッシュフローは長期的には全部株主に返す」と言っていますが、この12か月で返したのは58.1億ドルで、前年より11%少ない。自社株買いを16.1億ドルから6.4億ドルに絞りました。差額は返済した借入と、手元に積んだ現金です。シリコン・ラボの買収(1株231ドルの現金、企業価値約75億ドル、2027年前半に完了予定)の支払いが先にあるので、絞るのは分かります。

「地政学的に頼れる工場」と、中国21%

CEOが何度も使った言葉が geopolitically dependable capacity、中国と台湾の外にある工場です。アナログの生産能力はコロナ期のピークからの4年間ほとんど増えず、工場は土を掘ってから出力が出るまで4年かかる。TIはその4年を先に使った、という言い方です。

一方で、同じ会社の売上の21%は中国の顧客で、2024年の19%から増えています。第3四半期の車載の伸びを引いたのは「中国と米国」で、CEOは中国のEVメーカーが輸出を増やしていることを、1台あたりの搭載額もシェアも高いので歓迎していました。中国の顧客に選ばれる理由は「TIはグローバルな会社で、供給網が世界中に分散している」こと。米国の顧客には「中国の外にある工場」として、中国の顧客には「中国の制裁の外にある供給元」として、同じ工場が売られています。両方に売れている間は強い構造です。どちらかの政府がその間に線を引いた時に21%がどう動くかは、資料からは読めません。

設備投資は、下がったままなのか

2026年の設備投資は「20〜30億ドル、できれば上限寄り」と会社は言い続けています。ここで引っかかりました。9か月で使ったのは16.5億ドルです。上限寄りの30億ドルに着けるには第4四半期だけで13.5億ドル要り、今年のどの四半期よりも多い。CEO自身が「装置、とくに後工程の装置の納期が延びている」と言っていて、使いたいのに使えていない、と読みました。

2027年については「数字は言わない。需要と、どれだけ成長したいかで決まる」。IR責任者が補足して「10%成長を支える設備投資と、10%台半ばの成長を支える設備投資は別の水準で、2月の説明会で話す」。売上が前年比28%で伸びていて、受注残は需要どおりに積み上がり、納期が「少し延びた」なら、次の答えは「増やす」だと思います。フリーキャッシュフローの84億ドルは、設備投資が低いことを前提にした数字です。

気になっていること

  • 粗利率64%の大半は数量です。固定費の会社は、年次報告書が自分で書いているとおり、稼働が落ちると同じ速さで利益率が落ちます。価格の上乗せが「大きくない」なら、下り坂で守ってくれるものは今のところ無い
  • 在庫は46.7億ドルで、金額は1年前の48.3億ドルとほぼ同じです。売上が28%増えたので日数が減って見えるだけで、CEOは「顧客側の在庫はもっとあってほしい」と言いました。顧客が薄く持ち、TIが厚く持つ。上り坂ではTIから買うしかない構図で、下り坂では逆です
  • 市場シェアを聞かれて「測らない。サイクルを一周してから見る」。次のピークまで分からない、と言ったことになります
  • データセンターは売上の約13%、前年比+95%、約1万種類の部品。ただし産業機器の中の「エネルギーインフラ」と「テスト・計測」もデータセンター向けだとCEOが認めています。依存は13%より大きく、いくつかは出ていません
  • 売上の12%を占める顧客の名前

株価は10月22日の終値で279.50ドルです。決算の日の21日は284.65ドルで、翌日に1.8%下げました。10月6日の297.23ドルから見ると6%下です。

次の決算で見る所

次は第4四半期と2026年通期の決算です。前年は1月27日に出ているので来年1月末ごろだと思いますが、日付はまだ出ていません。2月には別に設備投資の説明会がある、とIR責任者が言っていました。

  • 第4四半期の売上。会社予想は58.0〜63.0億ドル、前年の44.2億ドルから+31〜42%。第4四半期は例年、季節で落ちる期なのに、今期と同じ水準を予想している。EPS予想は2.45〜2.79ドル
  • 2027年の価格。「1月に話す」と言った。64%の粗利率に価格の分がどれだけ乗るか
  • 2027年の設備投資。2月。20〜30億ドルから上がるか
  • 在庫。194日から減るか。減っていれば、本当に供給が足りていない
  • 組み込みプロセッシングの利益率。第3四半期の営業利益率は26.5%、前年は15.2%。「アナログより1年遅れで回復している」とCEO。リーハイの2つ目の工場は建屋が最終段階

結果は別の記事で書きます。

使った資料

組入比率は投資信託のデータと同じ2026年8月31日の月次レポートです。株価は書いた日のものです。

同じ工場に注文が入るだけで利益率が6ポイント上がる会社は、注文が止まった時も同じ速さで動きます。それを一番よく知っているのは、年次報告書にそう書いた会社自身です。