マーベル(MRVL)の2027年度第2四半期決算を一次ソースで読む。Googleに渡した5,897万株のワラントと、会社が自分で「下がる」と言う粗利率


番外編です。所長が10月17日にXで、有料noteのマーベル解説の告知を見かけて「次これかな」と持ってきました。告知の論旨は、AI半導体の主戦場が演算そのものから周辺のカスタムチップと光の接続に移る、というものです。読めるのは告知だけで、本文は読んでいません。

マーベル(Marvell Technology、ティッカー MRVL)は、所長の保有投信3本の組入上位10社には入っていません。ただSOX指数(フィラデルフィア半導体株指数)の構成比4.0%で、所長の日報には毎日出てくる銘柄です。順番の外ですが、同じやり方で読みます。

使うのは、2026年8月27日の2027年度第2四半期(5〜7月)決算のプレスリリースとその日の説明会の書き起こし、同じ日にSECへ出た四半期報告書(10-Q)、8月19日にSECへ出たGoogleとの契約の報告(8-K)、3月31日のNVIDIAの出資の報告、10月6日の投資家説明会(Investor Day)の書き起こしです。会社の決算年度は1月末で終わるので、「2027年度」は2026年2月から2027年1月までです。

どんな会社か

自分の工場を持たない半導体の設計会社です。先端品のウエハは全部TSMCに作らせていると10-Qに書いてあります。売上の切り口は2つしかなく、データセンターと、それ以外(通信・企業向け・家電・車載)です。

市場 2027年度第2四半期の売上 構成比 前年比
データセンター 21.7億ドル 79% +46%
通信・その他 5.7億ドル 21% +10%

データセンターの中身は、投資家説明会の説明に従うと3つです。顧客専用に設計するカスタムチップ(会社はXPUと、その周辺に付くXPUアタッチと呼ぶ)、光トランシーバーに入るDSPや光部品などの接続(インターコネクト)、イーサネットのスイッチとストレージの制御チップ。2026年度のカスタムの売上は約15億ドルで、全社82億ドルの2割弱でした。

顧客は少数です。2026年度は上位10社で売上の82%、この第2四半期は直販の最大顧客1社で16%。売掛金は4社で72%を占めています。noteの告知が言う「周辺と光へ移る」は、この会社の売上の大半がすでにそこにある、という意味では正しい。演算チップそのものを売っているのではなく、演算チップのそばに置くものを売っている会社です。

直近の決算の数字

項目 2027年度第2四半期 備考
売上 27.4億ドル 前年比 +37%、前期比 +13%。四半期の過去最高
粗利率(GAAP) 53.1% 非GAAPでは58.9%
営業利益率(GAAP) 16.8% 非GAAPでは36.6%
純利益(GAAP) 3.1億ドル EPS 0.33ドル。非GAAPの純利益は8.7億ドル、EPS 0.94ドル
営業キャッシュフロー 6.1億ドル 自社株買い2億ドル、配当0.5億ドル
現金 39.3億ドル 有利子負債は49.6億ドル

GAAPと非GAAPの差が大きい会社です。四半期の株式報酬が3.3億ドルで、売上の12%。買収した会社の無形資産の償却が2.1億ドル。この2つを足し戻すと利益が3倍近くになります。会社が語るのは非GAAPの数字で、この記事でも粗利率は非GAAPの方を追いますが、GAAPの純利益が売上の11%しかないことは先に書いておきます。

第3四半期(8〜10月)の会社予想は、売上31.5億ドル(プラスマイナス5%)、非GAAP粗利率57.5〜58.5%、非GAAPのEPS 1.10ドル。データセンターは前期比20%超、前年比で75%ほど伸びる見込みで、通信・その他は前期比で1割強減ると言っています。通年は約120億ドルで前年比45%増、来年度(2028年度)は8月の時点で約180億ドルでした。

マーベル 四半期の売上と非GAAP粗利率2027年度第2四半期まで。第3四半期は会社予想の中央値01224364860億ドル20.1FY26Q220.7FY26Q322.2FY26Q424.2FY27Q127.4FY27Q231.5FY27Q3予59.4%59.7%59%58.9%58.9%58%57%59%61%売上粗利率(非GAAP)出所: 決算プレスリリース(2026年度第4四半期、2027年度第2四半期)

顧客に株を渡して、売上を買っている

今回いちばん時間を使ったのは、決算ではなく8月19日の8-Kです。

7月29日、GoogleとTPU(Googleの自社AIチップ)の周辺に付くカスタムチップの商業契約を結びました。対象は推論アクセラレータ、ストレージ制御、ネットワークインターフェース、メモリインターフェース、ニアメモリ演算。そして8月18日、Googleに対してマーベル株を買える権利(ワラント)を発行しました。中身はこうです。

  • 最大5,897万株。行使価格は1株206.58ドル。期限は2033年8月
  • うち136万株は時間で付与される。残りは、Googleがカスタム製品を5億ドル買うごとに1トランシェずつ、240トランシェに分けて付与される
  • 240トランシェ全部が付与される条件は、2027年度第3四半期から2033年度末までの累計で1,200億ドルの購入

投資家説明会では幹部がこれを「6年半で1,200億ドルの機会」と呼んでいました。ただ、8-Kの付与条件は「裁量による購入」で、ワラントを全部渡す条件が1,200億ドルの購入というだけです。Googleがそれだけ買う約束をした契約ではありません。CEOは8月の説明会で、この契約の2028年度までの売上は以前から予想に入っていると言い、投資家説明会では、2031年度の計画にはワラントの価値の一部しか織り込んでいない、と言っています。

この仕組みは初めてではありません。10-Qによると、2025年度に顧客へ420万株(行使価格87.77ドル)、2026年度に別の顧客へ100万株(87.00ドル)のワラントを出しています。付与分は会計上、売上から差し引く形で処理されます。説明会では、2024年のAWS、2026年のNVIDIA、そしてGoogleで、時価総額上位5社のうち3社と戦略契約を結んだと説明していました。

NVIDIAの方は株の買い手です。3月31日に20億ドルで転換優先株を引き受け、転換価格は91.84ドル、最大2,180万株の普通株になります。見返りに、マーベルのカスタムXPUをNVIDIAのNVLink Fusionというラックの規格につなぐ提携を結びました。

並べると、1年の間に、NVIDIAに2,180万株分、Googleに5,897万株分、買収したCelestial AIの旧株主に2,450万株と最大2,240万株の追加。第2四半期の希薄化後の株数は9億2,100万株なので、Googleのワラントだけで6%です。売上の成長を株で買っている、と言っても言い過ぎではないと思います。悪いことだとは言いません。マイクロンの顧客は現金を預けていましたが、マーベルの顧客は株で持たされる側です。どちらが顧客を縛るかは、まだ分かりません。

粗利率は下がる、と会社が先に言っている

第2四半期の非GAAP粗利率は58.9%で、1年前の59.4%から0.5ポイント下がりました。第3四半期の予想は57.5〜58.5%で、さらに下がります。CFOは理由を「ミックス」と言い切っています。カスタムチップは粗利率が低く、それが伸びるからです。第4四半期も同じ範囲、2028年度も同じ範囲と言っています。

投資家説明会で出た2031年度の長期モデルも、粗利率56〜59%です。つまり会社は、これから5年、粗利率は上がらないと自分で言っています。売上が10倍になる計画の中で、です。代わりに営業利益率は44〜46%を目標にしていて、根拠は「費用は売上の半分の速さでしか増やさない」。粗利率を諦めて、固定費の効きで稼ぐ、という設計です。

CEOがもう一つ面白いことを言っていました。XPU本体よりXPUアタッチ(周辺)の方が粗利率が高い、と。演算チップそのものは儲からなくて、周辺の方が儲かる。noteの告知の論旨と同じ話が、会社の口から粗利率の形で出ていました。

光の方が、カスタムより大きい

投資家説明会の2031年度の売上目標は700〜900億ドルで、2026年度の82億ドルの10倍です。ここは私も数字をそのまま信じていませんが、内訳の置き方は読む価値があります。

マーベルが投資家説明会で示した2031年度の売上目標の内訳(中央値)インターコネクト(光と銅の接続)375億ドルカスタム(XPUとXPUアタッチ)300億ドルスイッチとストレージ100億ドル通信・その他25億ドル出所: Investor Day 2026(2026年10月6日)の書き起こし

中央値800億ドルの内訳は、インターコネクト(光と銅の接続)が375億ドル、カスタムが300億ドル、スイッチとストレージが100億ドル、通信・その他が25億ドル。カスタムチップの会社として語られることが多い割に、会社自身の5年計画では光と接続の方が大きい。

その接続の中で、2026年2月に35億ドルで買収したCelestial AIが、ラック内のチップ同士を光でつなぐ技術(会社はスケールアップと呼ぶ)の核です。買収の対価は現金12.8億ドルと株2,450万株、それに売上目標に応じた追加の支払いが付いていて、この追加分の引当は半年で3.2億ドルから7.5億ドルに膨らみました。株価が上がったからです。追加分の上限は現金2.3億ドルと株2,240万株。説明会では、この技術で来年1.5億ドルを見込むと言っていました。35億ドルの買い物に対して、まだ小さい数字です。

今すでに数字が出ている方の接続は、光トランシーバーに入るDSPと、データセンター間をつなぐ光モジュールです。説明会では、データセンター間接続のモジュール、光部品のアナログ回路、スケールアウトのスイッチの3つが、それぞれ年率10億ドルの規模に「乗ったか、前倒しで向かっている」と言っていました。

気になっていること

一つ目。貸借対照表の総資産276億ドルのうち、のれんが139億ドル、買収した無形資産が23億ドル。半分以上が買収の値札です。株で買収し、株で顧客と契約し、株で報酬を払う。株価が高いうちは全部が回りますが、第2四半期の希薄化後の株数は1年で5.8%増えていて、ここに5,897万株のワラントが乗ります。

二つ目。10-Qのリスク要因に「顧客が自前で開発する、垂直統合する」が入っています。カスタムチップの顧客は、設計図を自分で持てる会社ばかりです。投資家説明会でCEOは、実行中のプログラムは「全部、単独供給の専用設計」だと言っていました。今はそうでも、ワラントの期限は2033年です。

三つ目。粗利率が下がるのに営業利益率が上がる計算は、売上が計画どおり伸びることが前提です。費用を売上の半分の速さで増やす、は売上が伸びなければ費用が減るわけではありません。

株価は書いた日の前営業日、10月16日の終値で227.83ドル。投資家説明会の日の287.01ドルから8営業日で21%下げ、52週高値の329.88ドルから31%下です。700〜900億ドルの計画を出した後に下がっているのは、計画が信じられていないからか、半導体株全体の調整か、この記事の資料からは分かりません。

次の決算で見る所

第3四半期の決算は、昨年のペースなら12月の初めです。見る所は4つ。

  • 売上31.5億ドル(プラスマイナス5%)に対して、データセンターが前期比20%超で伸びたか。カスタムの加速は「2027年度下期から」と会社が言っていて、この四半期がその最初
  • 非GAAP粗利率が57.5〜58.5%の中のどこに落ちたか。下限を割れば、カスタムの比率が予想より早く上がっているか、値段が悪いかのどちらか
  • Googleのワラントの付与が始まるのがこの四半期。過去のワラントと同じ処理なら売上の控除として出る。金額が小さければ、まだ本格的に買っていないということ
  • 2028年度の約200億ドルが維持されるか。投資家説明会で180億ドルから上げたばかりで、CEOは「すでに見えている」と言っていた

使った資料

株価は書いた日のものです。

noteの告知は「演算から周辺と光へ」と言っていて、会社の資料もそう言っています。違いは、会社の資料にはその周辺の粗利率が下がると書いてあることです。