AIAグループ(1299)の2026年上期決算を一次ソースで読む。香港の中国本土客は「横ばい」、タイは「前年が異常」、それでも利益は目標超え
順番で来た銘柄です。世界のベスト(インベスコ 世界厳選株式オープン<為替ヘッジなし>毎月決算型)の組入3位、4.3%。香港上場なので、ロールス・ロイスの回と同じく所長の日報には株価が出ません。所長はこの銘柄について何も言っていません。
このシリーズで保険会社は初めてです。読み始めてすぐ困ったのは、売上も粗利率も無いことでした。代わりに VONB、OPAT、CSM という3つの略語が出てきて、分からないと1ページ目で止まります。数字の前に、この3つだけ説明します。
使うのは、2026年8月20日に香港取引所へ出た上期(1〜6月)決算の発表(194ページ)、同じ日の決算説明会の書き起こし、4月30日の第1四半期の新契約の発表、3月19日の2025年通期決算、それと比較用の2025年上期決算です。
どんな会社か
1919年に上海で始まった生命保険会社で、本社は香港、アジア18市場だけで商売をしています。総資産は3,600億ドル、個人保険の契約は4,500万件超。中国本土、香港、タイ、シンガポール、マレーシアの5つが報告セグメントで、残り11市場(インド、オーストラリア、台湾など)は「その他」です。
保険会社の決算は、入り口と出口が別の年に来ます。今年売った契約の保険料はこれから10年20年と入り続け、保険金の支払いもそのあとです。だから「今年いくら売れたか」は、保険料ではなく、今年売った契約が将来生む利益を現在価値に割り引いた数字で測ります。これが VONB(新契約価値)で、AIAが毎回いちばん上に置く数字です。OPAT は今期の営業利益(税引後)、CSM は「すでに売った契約から将来出てくる利益の在庫」で、ここから毎期一定の割合が OPAT に出てきます。
上期の市場別の数字です。VONB の前年比は為替を固定したものです。
| 市場 | VONB | 前年比 | VONB利益率 | OPAT |
|---|---|---|---|---|
| 香港(マカオ含む) | 11.7億ドル | +10% | 72.0% | 15.7億ドル |
| 中国本土 | 9.4億ドル | +20% | 54.1% | 10.1億ドル |
| タイ | 5.1億ドル | -6% | 96.9% | 7.1億ドル |
| シンガポール | 2.9億ドル | +10% | 45.6% | 4.1億ドル |
| その他11市場 | 2.6億ドル | +7% | 34.1% | 3.6億ドル |
| マレーシア | 2.3億ドル | +10% | 61.7% | 2.6億ドル |
VONB利益率は、年換算の新契約保険料に対する VONB の比率です。タイの96.9%は、保険料1ドルの契約から将来利益がほぼ1ドル出るという意味で、読んだ時に目を疑いました。理由はあとで書きます。
売り方は2通りで、専属の代理人が VONB の72%、銀行や仲介業者との提携が28%。代理人は10万人超で、MDRT(保険営業の国際的な成績上位者の団体)の会員数で12年連続世界1位だと、発表でも説明会でも何度も出てきます。
上期の数字
| 項目 | 2026年上期 | 備考 |
|---|---|---|
| VONB(新契約価値) | 32.1億ドル | 前年比 +10%。タイを除くと +14% |
| 年換算新契約保険料(ANP) | 56.6億ドル | +12% |
| VONB利益率 | 57.1% | 前年同期は57.7% |
| OPAT(営業利益、税引後) | 41.6億ドル | +11%。1株あたりでは +13% |
| 純利益 | 42.9億ドル | +62%。1株あたりでは +65% |
| 保険料収入(TWPI) | 275.3億ドル | +11%。OPAT/TWPI は15.2% |
| 株主還元 | 36.5億ドル | 期末配当19.1億ドルと自社株買い17.4億ドル |
| 中間配当 | 1株53.90香港セント | +10% |
| 株主資本比率 | 210% | 2025年末は221% |
前年比はすべて為替を固定したもので、実際の為替だと VONB は +13%、OPAT は +15% です。「1株あたり」の伸びが全体より2ポイント高いのは、自社株買いで株数が2%減っているからです。
純利益の +62% は見かけです。OPAT との差は株式や不動産の時価変動で、今年上期は中国本土とタイの株高で +5.1億ドル、前年同期は -7.5億ドル。会社自身が「純利益ではなく OPAT を見てほしい」と言っていて、ここは会社の言い分に乗ります。
香港の中国本土客、「横ばい」の中身
香港は VONB 11.7億ドルで最大の市場、+10% で利益率は6.2ポイント上がって72.0%。数字だけ見ると文句の無い半期ですが、中身を2つに割ると様子が違います。香港の住民向けは +23%。中国本土から香港に来て保険に入る客(会社は Chinese Mainland Visitor、略して CMV と呼ぶ)は「前年の高い水準に対して概ね横ばい」。前年の上期は2025年半ばの商品変更の前に駆け込みがあった、というのが会社の説明です。
そして4月に出た第1四半期の発表では、香港は +21% でした。上期で +10% なら、第2四半期の香港は前年並みか、それを下回っています。会社は四半期の本土客の数字を出さず、「第2四半期は第1四半期より多く、6月が上期で最も多い月だった」と言っています。6月が最強と言われると、4月と5月が弱かったのだと読むしかありません。
説明会の最初の質問がこの話でした。ゴールドマンのアナリストが「香港の数字はコンセンサスを少し下回った。ニュースも多い。現場で何が起きているか」と聞き、シティのアナリストは「837号令のあとで本土客の心理はどう変わったか」「香港や海外の保険の配当に20%の追加課税という噂をどう見るか」と聞いています。香港のトップの答えは「税金が香港の長期保険の需要を動かしたことは一度も無い」「5月のニュース以降も需要は良い」でした。
837号令が何なのか、今回読んだ資料には説明がありません。私もここで調べるのをやめました。分かっているのは、アナリストが2人続けてこの話を聞き、会社が「規制の変更は無い」と答えた所までです。
数字で出ているものを並べておきます。上期に本土客の新規顧客が25,000人超、累計で約55万人、新規契約の67%は広東省の経済圏(グレーターベイエリア)の外から。1契約の平均は2万ドルから2万1,000ドル、継続率は99%、保険料をローンで払う契約は VONB の1%未満。会社が「需要の構造は変わっていない」と言う根拠はここです。
中国本土、利益率を下げて量を取る
中国本土は VONB 9.4億ドルで +20%。年換算保険料は +30% なのに利益率は4.5ポイント下がって54.1%です。会社の説明は、低金利なので「有配当(participating)の貯蓄商品に寄せた」から。利回りを約束する商品は、金利が下がると保険会社が損をします。配当型なら運用の結果を契約者と分けるので、会社側の資本負担が軽い。利益率を下げて資本効率を取った、という話で、実際、新契約に使った資本は7.3億ドルで +4% なのに VONB は +20%、新契約投資後のキャッシュ創出(net FSG)は1株あたり +12% で投資前の +10% より高い。
販路で見ると、代理人は +24%、利益率60%。銀行経由は -6%、利益率35%。銀行経由が減ったのは「競争が激化した」からで、7月から規制当局が「報行合一」という規制を強め、市場全体が移行期に入ったそうです。中国のトップは、これで銀行経由の販売が「手数料主導から総合的な能力主導に変わる」と説明していました。アナリストに「この混乱はいつまでか、第3四半期の終わりまでか」と聞かれて、会社は答えていません。CEOが「四半期の数字に注目しすぎないでほしい」と先回りしていたのが印象に残ります。
タイ、前年が異常だった
タイは唯一のマイナスで、VONB 5.1億ドル、-6%。理由は会社が1年前から言っていたもので、2025年3月に医療保険に業界全体で自己負担(co-payment)の仕組みが入り、その前に駆け込みが出た。前年同期の利益率は115.7%で、今期は96.9%。第1四半期に落ちて、第2四半期は +13% に戻っています。
利益率96.9%の説明がここに入ります。タイの VONB の75%は保障商品(医療や重大疾病の特約)で、その市場シェアは50%超、代理人のシェアは46%。貯蓄ではなく保障を、独占に近いシェアで売っているので、保険料1ドルあたりの将来利益が1ドル近くになる。シンガポールの45.6%と比べると、同じ会社の同じ指標とは思えない差です。
「前年が異常だった」は会社に都合がよすぎる気もしましたが、2025年上期の決算発表を開いたら、確かに当時すでに「一時的な押し上げ」と書いてありました。そこは誠実です。
目標を超える、と言い出した
この会社は2023年から2026年までの OPAT の1株あたり成長率に「年9〜11%」という目標を置いていました。実績は2024年が +12%、2025年が +12%、今期上期が +13%。それで今回「目標を超える見込み」と書きました。
CFOが説明会で面白いことを言っています。この目標を置いた時はコロナ明けで、IFRS17(保険会社の新しい会計基準)が入ったばかりで、利益がどう出てくるか市場が混乱していた。今は分かった、と。売った契約の将来利益が CSM という在庫に積まれ(上期末677.7億ドル、新契約で48.7億ドル追加)、そこから年9.2%のペースで OPAT に出てくる(上期は33.9億ドル)。新契約が伸びれば在庫が増え、出てくる利益も増える。会社はこれを「財務のはずみ車」と呼んでいます。費用率が2年で1.3ポイント下がって6.9%になったことと、医療保険の支払い管理で約2億ドル浮いたことも効いています。
株主還元は2022年以降の累計で266億ドル、自社株買いで株数を15%減らしました。方針は「年間の net FSG の75%を配当と自社株買いで返す」で、2026年分の自社株買いの額は2027年3月の通期決算で決まります。
気になっていること
第2四半期の減速です。第1四半期の VONB は +13%(タイを除くと +22%)、上期で +10%(同 +14%)。第1四半期の17.6億ドルを上期の32.1億ドルから引くと第2四半期は14.6億ドル、前年同期は同じ計算で13.4億ドルなので、実際の為替で +8% 程度。第1四半期の +17% から半分です。UBSのアナリストが「投資家は10%台半ばの成長を期待している。上期10%なら下期は加速が要るが、どこで伸びるのか」と聞き、CEOの答えは「4つの成長エンジン(中国本土、香港、ASEAN、インド)」と「長期の実績のスライドを見てほしい」でした。数字では答えていません。
次に、市場リスクの向きです。EV(保有契約の価値)の感応度は、金利が0.5%上がると -1.7億ドル(-0.2%)、株価が10%下がると -27.5億ドル(-3.4%)。金利にはほとんど効かず、株には効く会社です。今期の純利益を押し上げた中国本土とタイの株高は、来期に反対向きに出ることがあります。
株価です。10月16日の終値は73.30香港ドルで、1月29日の高値90.95から19%下げています。決算の8月20日はほぼ横ばい、翌日に3%高。10月2日に73.60から69.20へ1営業日で6%落ちていますが、理由は今回の資料には無く、私は調べていません。上期末の EV Equity は1株8.06米ドルで、1米ドル=7.8香港ドルで直すと約62.9香港ドル。株価はその1.17倍です。安いのか、本土客の減速を織り込んでいるのか、私にはまだ決められません。
次に見る所
次は10月30日の第3四半期の新契約の発表です(会社の財務カレンダー)。VONB しか出ませんが、見る所ははっきりしています。
- 香港の本土客。「6月が最も多い月」の勢いが7〜9月に続いたか
- タイ。前年の駆け込みの反動は第2四半期で終わったはずなので、第3四半期は素直に伸びるか
- 中国本土の銀行経由。「報行合一」の移行期が数字にどう出るか
- グループ全体で、第2四半期の +8% 程度から戻るか
通期決算は2027年3月で、OPAT の目標超えの確定と、2026年分の自社株買いの額が出ます。
使った資料
- AIA Group 2026年上期決算の発表(2026年8月20日、PDF)
- 2026年上期決算のプレスリリース(2026年8月20日、PDF)
- 2026年上期決算説明会の書き起こし(Q&A付き、PDF)
- 2026年第1四半期の新契約の発表(2026年4月30日、PDF)
- 2025年通期決算の発表(2026年3月19日、PDF)
- 2025年上期決算の発表(2025年8月21日、PDF。比較用)
- AIA 財務カレンダー
組入比率は投資信託のデータと同じ2026年8月31日の月次レポートです。株価は書いた日のものです。
保険会社の決算は、今年の数字が10年後の利益の話で、10年前に売った契約が今年の利益を作っています。読み終えて思ったのは、この会社の今期の利益を疑う材料は無くて、疑うなら「10年後の利益」を作っている今期の香港の本土客の方だ、ということでした。