インテュイティブ・サージカル(ISRG)の2026年第3四半期決算を一次ソースで読む。売上+22%で純利益26%減、4.5億ドルの和解と器具の値下げの話
次の決算は2027年1月21日ごろの見込みです(推定。前年の同じ時期から)。過去の発表日は2026年10月20日、7月16日、4月21日、1月22日。決算日の一覧
順番で来た銘柄です。フィジカルAIの組入9位、4.2%。インテュイティブ・サージカル(Intuitive Surgical、ティッカー ISRG、NASDAQ上場)。手術ロボット「ダビンチ」の会社で、所長はこの銘柄について何も言っていません。
書いている前日の10月20日に第3四半期の決算が出ました。売上は前年比22%増で、純利益は26%減。両方とも本当で、差の正体が4.5億ドルの和解金です。今回はそこを中心に読みます。
使うのは10月20日の決算のプレスリリース(SECに提出された8-Kの添付)、同じ日の決算説明会の書き起こし、2025年の年次報告書(10-K)、四半期の数字をそろえるための前3回のプレスリリースです。資料に無いことは「無い」と書きます。
どんな会社か
1999年に最初のダビンチを出した会社で、今も売上の全部が手術ロボットとその周辺です。製品は2つ。腹部や胸部の手術で医師が操作する「ダビンチ」と、肺の中に細い管を入れて生検をする「Ion」。事業セグメントは1つです。
稼ぎ方が独特で、ロボット本体の売上は全体の4分の1しかありません。説明会で出た購入価格はダビンチ1台で約160万ドルですが、本体を置いた病院が、手術のたびに使い捨ての器具(EndoWrist)を買い、保守契約を結び、リースなら毎月払う。会社はこれを「繰り返し入る売上」と呼んでいて、2025年は売上の84%がこれでした。
| 2025年の売上 | 金額 | 構成比 | 前年比 |
|---|---|---|---|
| 器具・消耗品 | 60.2億ドル | 60% | +19% |
| ロボット本体 | 24.7億ドル | 25% | +26% |
| 保守サービス | 15.7億ドル | 16% | +20% |
| 合計 | 100.6億ドル | +21% |
地域は米国が68.2億ドルで68%。手術の件数は2025年に315万件で、米国が201万件、米国外が114万件。米国でいちばん多いのは一般外科(胆嚢摘出、ヘルニア、虫垂、大腸)の125万件、米国外では泌尿器科の51万件です。前立腺の手術から始まって、良性の日常的な手術に広がってきた順番がここに出ています。
直近の決算の数字
- 売上: 30.5億ドル。前年比 +22%
- うち器具・消耗品: 18.0億ドル。+18%
- うちロボット本体: 7.7億ドル。+30%
- うち保守サービス: 4.8億ドル。+22%
- 粗利率(非GAAP): 69.9%。前年同期は68.0%
- 営業利益(GAAP): 5.9億ドル。前年同期は7.6億ドル。22%減
- 営業利益(非GAAP): 12.7億ドル。+30%
- EPS(GAAP): 1.49ドル。前年同期は1.95ドル
- EPS(非GAAP): 3.00ドル。+25%
- 現金と投資: 68.0億ドル。前四半期から18.3億ドル減
- 手術件数: 前年比 +15%。ダビンチ +14%、Ion +31%
- ダビンチの設置台数: 546台。前年同期は427台。うち最新のダビンチ5が315台
- 設置済みのダビンチ: 12,094台。+12%
GAAPと非GAAPで営業利益の向きが逆なのは、販管費に4.55億ドルの訴訟費用が入ったからです。それを除けば、売上も利益も粗利率も全部前年より良い。だから、この四半期の評価は和解をどう見るかで決まります。
4.5億ドルで何を買ったのか
訴訟の中身は年次報告書に書いてあります。2021年に米国の病院3社がカリフォルニア北部地区の連邦地裁に起こした集団訴訟で、争点はダビンチの器具の修理と再利用です。器具は使える回数が決まっていて、回数を超えると使えなくなる。第三者の業者がそれを改造して回数を延ばし、会社が業者を締め出した、というのが病院側の主張です。2024年3月に裁判所は「ダビンチ本体と器具は別の市場だ」と病院側に有利な判断を一部出し、2025年3月に原告の集団が認められていました。年次報告書の段階では「損失の見積もりはできない」でした。
それが10月、調停を経て、4.5億ドルの一括払いと「双方が合意した差止的救済」で和解しました。責任は認めない。税引後で3.47億ドル、EPSで0.99ドル。裁判所の承認が残っていて、CFOのジェイミー・サマス氏は「来年までは決まらない」と言っています。
説明会でCEOのデーブ・ローザ氏が使った言葉は「無過失の和解」「顧客と当社の双方に確実性をもたらす」「器具と保守の2つの分野で、今後どう協力していくかの明確な枠組み」でした。
私が引っかかったのは、4.5億ドルより「差止的救済」の方です。お金は一回で終わります。差止的救済は、会社が今後やってはいけないこと、やらなければいけないことの約束で、第三者の修理業者の扱いか、器具の使用回数か、何かが変わるはずです。その中身は、プレスリリースにも説明会にも出ていません。売上の6割は器具で、器具の売上は「使える回数」で決まる。どの約束をしたかで、この会社の稼ぎ方の一部が変わります。資料には無い、としか今は書けません。
ちなみに修理業者が自分で起こした訴訟は、SISの件は2025年1月に会社が全面勝訴、Restoreの件は2025年11月に棄却されて控訴中です。業者には勝って、顧客である病院とは和解した。この順番は分かりやすいと思います。
自分から値下げする話
同じ説明会で、サマス氏がもう一つ数字を出しています。器具の売上を1件あたり3〜5%下げる、です。
第4世代と第5世代のダビンチで使う主な器具の「使える回数」を延ばす。延ばせば1件あたりの器具代が下がる。対象として名指ししたのは胆嚢摘出と鼠径ヘルニアで、件数が多くて、費用が普及の壁になっている良性の手術です。1回目の同じ施策は2020年で、そのときの見積もりは7%の減少でした。今回はそれより小さい。
時期は国ごとで、中国は第4四半期から。中国は政策で請求コードが変わった影響で器具の価格を「大幅に下げる」と前の四半期に説明していて、それが実行に移ります。米国は2027年第1四半期の後半、欧州は2027年下半期、フルに効くのは2027年末。1件あたりの器具の売上は今四半期で約1,860ドル、前年は1,800ドルでした。ここから3〜5%です。
アナリストが「値下げに対して件数はどう動くと見ているか」と聞き、答えは「弾力性があると信じている。2027年にすぐ効くものではなく、時間をかけて」でした。ローザ氏は「トレードオフではない。対象市場を広げる戦略だ」と。
器具の使用回数をめぐる訴訟で和解した四半期に、器具の使用回数を自分から延ばす計画を出した。会社はこの2つを結びつけて説明していませんし、私も因果は分かりません。ただ、どちらも「器具1本から取る金額を減らす」方向で、同時に出たことは書いておきます。
米国10%、米国外20%
ダビンチの手術件数の伸びは、米国が10%、米国外が20%でした。全体の14%は、米国が足を引っ張った形です。
会社の説明は、前年同期が16%増で「今年いちばん厳しい比較」だったこと、それと米国の医療保険の制度変更です。ACA(オバマケア)の保険料補助とメディケイドの加入資格の変更で患者の行動が変わる可能性を「引き続き監視している」と言っていて、通年の見通しの幅もこれを織り込んでいます。通年のダビンチの件数の伸びは13.5〜15.5%から14〜15%に狭めました。
米国外は欧州が20%、アジアが19%。米国外の良性手術は41%増で、第1四半期の34%、第2四半期の37%から加速しています。一方で中国は本体の設置が減り、通年見通しの前提に「入札の件数と競争の激しさ」が入っています。年次報告書の競合の一覧には、メドトロニック、ジョンソン・エンド・ジョンソン、CMRサージカルと並んで、北京、上海、山東、ハルビンの中国メーカーの名前が複数出てきます。中国の値下げは、そういう場所で起きています。
気になっていること
粗利率69.9%は、前の四半期の70.0%と並ぶ高さですが、関税の還付2,800万ドルが乗っています。除くと68.9%で、それでも前年より0.9ポイント良い。通年の見通しは68.7〜69.3%に上げました。ここは数字がきれいです。
自社株買いは、この四半期だけで29.4億ドル、780万株、平均377ドル。2025年は1年で23億ドルを平均478ドルで買っていたので、株価が下がった所で1年分以上を1四半期で買ったことになります。現金と投資は86.3億ドルから68.0億ドルに減りました。借金はありません。
株価は10月20日の終値で438.00ドル。52週の高値は603.88ドル、安値は328.57ドルです。決算の後、時間外で7%ほど下げたと報じられています。非GAAPの数字は全部良かったので、下げたのは和解か、値下げか、米国の10%か。私は値下げだと思っています。和解は一回で終わり、米国の減速は会社が7月に予告していた。1件あたりの売上を下げる、は今回初めて出た話です。
次の決算で見る所
次は2026年通年の決算で、今年は1月22日でした。例年どおりなら1月下旬です。
- 中国の値下げが入ったあとの、1件あたりの器具の売上。1,860ドルからいくら下がったか
- 米国のダビンチの件数の伸び。10%で止まるか、16%の比較が終わって戻るか
- 2027年の営業費用と利益率の見通し。今は非GAAPの営業利益率が41〜42%で、サマス氏は「投資する余地がある」「営業費用をどうするかはまだ言えない」
- 和解の裁判所承認と、差止的救済の中身が公開されるか
使った資料
- Intuitive Surgical 2026年第3四半期決算プレスリリース(Form 8-K 添付、2026年10月20日)
- 2026年第3四半期決算説明会の書き起こし(Investing.com、2026年10月20日)
- Intuitive Surgical Form 10-K(2025年度、2026年2月3日提出)
- 2026年第2四半期決算プレスリリース(2026年7月16日)
- 2026年第1四半期決算プレスリリース(2026年4月21日)
- 2025年第4四半期決算プレスリリース(2026年1月22日)
組入比率は投資信託のデータと同じ2026年8月31日の月次レポートです。株価は書いた日のものです。
4.5億ドルで買ったものの中身が、和解の文書が公開されるまで分からない。この記事でいちばん大事な所が、いちばん書けていない所です。