ロールス・ロイス(RR)は車の会社ではない。2026年上期決算を一次ソースで読む。飛んだ時間で稼ぐエンジン、データセンターの発電機、まだ赤字の小型原子炉
3本目の候補を出したら、所長から「ロールス・ロイス面白そうね。車しか知らない」と返ってきました。たぶん多くの人がそうだと思います。なので今回は、車の話から始めます。
この銘柄は世界のベスト(インベスコ 世界厳選株式オープン<為替ヘッジなし>毎月決算型)の組入4位、4.0%です。所長が10月に買った投資信託で、組入上位10社のうち4社がロンドンか香港の上場で、所長の日報は株価を取れていません。日報に出ない銘柄を、記事で先に読んでおく回でもあります。
使うのは、2026年7月30日の上期決算のプレスリリース(52ページ)と決算説明会の書き起こし、4月30日の株主総会での取引状況の更新、2月26日の2025年通期決算の発表です。
車の会社ではない
ロールス・ロイスの車は、1906年から1973年まで航空機エンジンと同じ会社が作っていました。1971年、新型エンジンRB211の開発費で会社が倒産し、英国政府が国有化します。航空機エンジンは国が引き取り、車の部門は1973年に別会社として切り離されました。航空機エンジンの会社は1987年に再上場し、それが今の Rolls-Royce Holdings plc、ロンドン上場の RR です。
車の会社の方は1998年にBMWが買い、2003年からBMWの完全子会社 Rolls-Royce Motor Cars として作っています。ここが面白い所で、「ロールス・ロイス」の名前とロゴの権利は航空機エンジンの会社が持ったままです。1998年に4,000万ポンドでBMWにライセンスしました。車に付いている名前は、エンジンの会社から借りている名前です。
なので、この記事に車は出てきません。
何で稼いでいるか
3つの事業があります。2026年上期の売上と営業利益です。
| 事業 | 売上 | 構成比 | 営業利益 | 営業利益率 | 中身 |
|---|---|---|---|---|---|
| 民間航空 | 61.9億ポンド | 55% | 15.7億ポンド | 25.3% | 大型旅客機のエンジンと、その整備 |
| 防衛 | 24.8億ポンド | 22% | 5.2億ポンド | 21.0% | 戦闘機、輸送機、潜水艦、艦艇のエンジン |
| パワーシステムズ | 26.0億ポンド | 23% | 5.3億ポンド | 20.3% | ディーゼル・ガスの大型エンジン(mtuブランド)。データセンターの非常用電源、艦船、戦車 |
民間航空は、エアバスA350(Trent XWB)、ボーイング787(Trent 1000)、A330neo(Trent 7000)といった大型機のエンジンだけを作っています。A320や737のような小型機のエンジンは作っていません。大型機の世界では、GEとの2社でほぼ全部です。
この事業の稼ぎ方が独特です。エンジンそのものは安く売って、売ったあとに航空会社から「飛んだ時間」に応じて整備費を受け取ります。会社はこれを LTSA(長期整備契約)と呼んでいて、上期の民間航空の売上のうち、エンジン本体は20億ポンド、整備などのサービスが42億ポンド。飛行時間に応じて航空会社から入ってきた現金は34億ポンドでした。
だから会社が毎回出している指標は、売上より先に「エンジン飛行時間」です。上期は2019年比で113%、前年比で4%増。これが伸びれば現金が入り、新型コロナで旅客機が飛ばなくなった2020年のように止まれば現金が止まります。
上期の数字
| 項目 | 2026年上期 | 備考 |
|---|---|---|
| 売上 | 112.8億ポンド | 前年比 +26% |
| 営業利益 | 25.3億ポンド | 前年比 +46% |
| 営業利益率 | 22.5% | 前年同期は19.1% |
| フリーキャッシュフロー | 19.6億ポンド | 前年同期は15.8億ポンド |
| ネットキャッシュ | 21.4億ポンド | 2025年末は18.9億ポンド |
| 自社株買い | 2026年に25億ポンド | 7月末までに14億ポンド実施。2026〜2028年で70〜90億ポンド |
通期の予想を上げました。営業利益は40〜42億ポンドから47〜49億ポンドへ、フリーキャッシュフローは36〜38億ポンドから38〜40億ポンドへ。中東の紛争で中東の航空会社の飛行時間が一時減りましたが、「影響は全部吸収した」と言っています。
数字の見方で一つ注意があります。上期の営業利益のうち4.97億ポンドは、過去に結んだ整備契約の条件を改善したことによる一時的な計上(契約のキャッチアップ3.72億ポンドと、不採算契約の引当金戻し入れ1.25億ポンド)です。会社自身が「下期はこの寄与が減る」と書いています。前年同期も2.88億ポンドあったので、全部が一時的というわけではありませんが、46%増の中にはこれが入っています。
2028年の目標を2026年に出してしまった
この会社の今のCEOは、2023年1月に就任したトゥファン・エルギンビルギッチ氏です。就任直後に全社員に向けて、会社は「燃えている足場(burning platform)の上にいる」「投資するたびに価値を壊している」と言った人で、その後の3年で中間管理職2,500人を削り、不採算の整備契約を航空会社と結び直しました。
結果は数字に出ています。2025年通期の営業利益率は17.3%、今年上期は22.5%。2026年2月に出した「2028年の中期目標」は営業利益49〜52億ポンド、営業利益率18〜20%でしたが、7月に引き上げた2026年の予想が47〜49億ポンドです。2年前倒しで、ほぼ届いてしまいました。
説明会でCEOはこう言っています。「上期の進捗を踏まえて、中期目標を見直すかもしれない」。それと、「我々がどう会社を動かしているかを無視して数字だけ見ても、結果は理解できない」。チームに予算を追わせるのではなく、毎年の改善を課している、という説明でした。
もう一つ、説明会で繰り返されたのが「現金の大半はまだ来ていない」という話です。整備契約の改善で作った現金価値のうち、2028年末までに実現するのは25%、エンジン本体の契約の再交渉分は30%。残りはそのあとです。これは会社の言い分としては強気の材料ですが、裏返すと、株価の根拠の7割は2028年より先の約束だ、ということでもあります。
データセンターの発電機
ここが、この記事をマイクロンとTSMCの次に置いた理由です。
パワーシステムズの上期の受注は46億ポンドで前年比50%超、受注残は80億ポンド。発電向けの売上は41%伸び、会社は「データセンター向けが牽引した」と書いています。データセンターの非常用電源に使うディーゼルエンジンと、電力会社の送電網につながずに常時発電するためのガスエンジンです。
CEOは、ハイパースケーラー(大手クラウド事業者)とは罰則付きの枠組み契約を2030年まで結んでいて、2028年分の注文をもう受けていると言っています。発電向けの売上成長の目標を「2028年まで年20%」から「2030年まで年25%」に上げました。常時発電用のガスエンジンは今は発電事業の10%未満ですが、非常用より速く伸び、使い込むぶん整備の売上が大きい、と。
同じ日、アナリストから「AIはバブルではないか」という趣旨の質問が出ています。CEOの答えは、「企業の評価額が高すぎるかどうかにはコメントしない。デジタル化が続くかどうかは別の話で、それは続く。だからデジタルの基盤への投資も続く」でした。マイクロンのメモリ、TSMCのウエハの次に、電気を作る機械にも同じ需要が来ている、ということです。
まだ赤字の小型原子炉
Rolls-Royce SMR は、出力470MWの小型モジュール炉を作る子会社です。原子力潜水艦の原子炉を半世紀以上作ってきた技術が元になっています。2026年に決まったことを並べます。
- 英国。4月13日に政府の Great British Energy - Nuclear と契約し、ウェールズのウィルファに3基。最終投資決定は2029年、政府系の National Wealth Fund が最大5.99億ポンドを融資
- チェコ。電力会社CEZと最大3GW。CEZは Rolls-Royce SMR に20%出資している
- スウェーデン。6月に3基の供給者に選ばれた
会社は「欧州の競争入札で全勝」「2030年代半ばに年2基、最終的に年8基を稼働させたい」と言っています。ただし、まだ利益は出ていません。Rolls-Royce SMR は2025年上期に連結から外れ、損益の持分は「その他事業」に入っていて、上期は3,000万ポンドの赤字です。売上と利益が出始めた、と書いてはありますが、本体の営業利益25億ポンドの中には入っていない規模です。
説明会でCEOが面白いことを言っていました。SMRを始めた時は470MWは送電網向けだと思っていた。ところがデータセンターが200MWから500MWの規模になってきて、1基でデータセンター1つをまかなえる大きさになった、と。データセンターの発電機とSMRの営業が、今はハイパースケーラーの所に一緒に行っているそうです。
気になっていること
防衛の営業利益率が21.0%で、前年同期の15.4%から5.4ポイント上がっています。2月に出した中期目標は14〜16%でした。説明会でアナリストが「持続するのか」と聞き、CEOは「整備費の削減によるもので、持続する」と答えています。目標を6ポイント超えた数字が持続すると言われて、そのまま受け取っていいのかは、2月の通期決算で見るしかありません。
もう一つ。10月8日の株価は1,367ペンスで、10月5日の1,478ペンスから4営業日で7.5%下げています。マイクロンとTSMCが下げたのと同じ週です。52週高値は1,586ペンス、PERは40倍前後です。利益率が22%の会社に、利益の40倍の値段が付いている。買っているのは今の利益ではなく、「現金の7割は2028年より先」という約束の方です。約束は、エンジン飛行時間が伸び続けることと、データセンターが建ち続けることの上に乗っています。
次に数字が出るのは、例年どおりなら11月の取引状況の更新と、2027年2月の通期決算です。見る所は、通期の営業利益が47〜49億ポンドのどこに落ちたか、中期目標を本当に引き上げるか、それと防衛の利益率です。
使った資料
- Rolls-Royce Holdings plc 2026 Half Year Results(プレスリリース、2026年7月30日、PDF)
- 2026年上期決算説明会の書き起こし(PDF)
- AGM取引状況の更新(2026年4月30日、PDF)
- 2025年通期決算(2026年2月26日)
- 英国政府とのSMR契約の発表(2026年4月13日)
- World Nuclear News、ウィルファのSMR契約(2026年4月)
- The Irish Times、新CEOの「燃えている足場」発言(2023年1月)
- Wikipedia、Rolls-Royce Motor Cars(車の会社の経緯とBMWのライセンス)
組入比率は投資信託のデータと同じ2026年8月31日の月次レポートです。株価は書いた日のものです。