3iグループ(III)は1社で決まる投資会社。2026年3月期決算を一次ソースで読む。純資産の75%がオランダの日用品店、株価は純資産の2割引


6本目も順番で来ました。世界のベストの組入1位、5.0%の3iグループ(3i Group、ティッカー III、ロンドン上場)です。所長はこの銘柄について何も言っていません。前回のロールス・ロイスと同じ投資信託で、同じ英国株です。

使うのは、2026年5月14日の2026年3月期通期決算のプレスリリース(52ページ)、7月23日の第1四半期の業績更新(4ページ)、5月14日の決算説明会の要約記事、それと株価の下落を報じた記事です。説明会の書き起こしそのものは有料サイトにしか無く、読めていません。

3iのIRサイトはcurlで取りに行くと403を返します。昨日のクラウドフレアと同じ画面でした。PDFだけは直接取れたので、それと英国の金融当局が公開しているRNS(適時開示)の全文で読んでいます。

どんな会社か

事業会社ではなく、投資会社です。1945年にイングランド銀行と英国の銀行が中小企業に長期資金を出すために作った会社で、1994年に上場しました。今は未上場企業への投資(プライベート・エクイティ、PE)とインフラ投資の2本で、従業員は250人ほど。この250人が320億ポンドの資産を動かしています。

稼ぎ方は、持っている会社の評価額が上がれば利益、下がれば損失です。売上に当たるのは「総投資収益」(GIR)で、2026年3月期の内訳はこうでした。

部門 総投資収益 期初資産に対する率 2026年3月末の資産 中身
Action 45.1億ポンド 25% 237.4億ポンド オランダのディスカウントストア。持分65.4%
Actionを除くPE 7.9億ポンド 14% 59.6億ポンド 消費財、ヘルスケア、産業、ソフトウェアの33社
インフラ 1.1億ポンド 7% 15.4億ポンド 上場子会社 3i Infrastructure(3iN)の29%と運用ファンドの持分
Scandlines 0.6億ポンド 10% 5.7億ポンド デンマークとドイツを結ぶフェリー

合計の総投資収益は54.6億ポンドで、そのうち45.1億ポンドがAction1社です。83%です。資産でも318億ポンドのうち237億ポンドで75%。

つまりこの記事は、ほぼActionの記事になります。

3iグループ 部門別の総投資収益(2026年3月期)合計54.6億ポンドのうちActionが45.1億ポンド(83%)Action45.1億ポンドActionを除くPE7.9億ポンドインフラ1.1億ポンドScandlines0.6億ポンド出所: 3i Group FY2026 決算プレスリリース(2026年5月14日)

直近の決算の数字

3iの決算期は3月末です。5月に通期、7月に第1四半期の更新が出ています。

項目 2026年3月期 備考
総合利益(Total return) 53.0億ポンド 期初純資産に対して22%。前期は50.5億ポンド、25%
1株純資産(NAV) 3,030ペンス 前期2,542ペンスから+19%。うち77ペンスは為替
純資産 308.9億ポンド 前期246.1億ポンド
営業キャッシュ利益 2.8億ポンド 前期4.7億ポンド。Actionからの配当を除くと0.3億ポンド
営業費用 1.4億ポンド 前期1.5億ポンド
ギアリング 2% 純負債5.5億ポンド
年間配当 84.5ペンス 前期73.0ペンス
自社株買い 最大7.5億ポンド 2026年12月末まで。7月21日時点で3.4億ポンド実施

7月の更新では、6月末の1株純資産が3,131ペンス。3か月で3%増えましたが、ポンド高で2.8億ポンドの為替損が出ています。

営業キャッシュ利益の行を見てください。投資先からの配当と運用報酬で入ってくる現金から、人件費などを引いた数字です。2.8億ポンドのうち、Actionからの配当が2.5億ポンド。Actionを除くと3,000万ポンドしか残りません。評価益を除いて現金だけで見ると、Actionの配当で社員を養っている会社です。

Action 年間の売上と営業EBITDA率暦年(12月期)。3iが持分65.4%を保有する投資先060120180240300億ユーロ88.62022113.22023137.82024160202513.6%14.3%15.1%14.8%12%14%16%売上営業EBITDA率出所: 3i Group 通期決算(FY2023〜FY2026)

純資産の4分の3が1社

Actionは1993年にオランダで始まったディスカウントストアで、食品以外の日用品を低価格で売ります。3iは2011年に過半を買いました。今は欧州15か国に3,423店(2026年6月末)。

2025年12月期(52週)の数字です。

項目 2025年 前年比
売上 160.0億ユーロ +16%
既存店売上(LFL) +4.9% 2024年は+10.3%
営業EBITDA 23.7億ユーロ +14%
EBITDA率 14.8% 2024年は15.1%
純増店舗数 384店 2024年は352店
週あたり来客数 2,160万人 過去最高

既存店売上は最大市場のフランスが+1.3%、フランスを除くと+7.2%。会社は「消費者の慎重さと、小売業界全体の競争と値引きの激化」を理由に挙げています。

成長の根拠は出店です。会社は欧州に「あと約4,650店の余地がある」と言っていて、2026年も400店以上の純増を目標にしています。6月末時点で121店、進捗は「計画どおり」。さらに「詳細な市場調査の結果、2027年末か2028年初めに米国に参入する」と決めました。

ここまでが会社の言い分です。

18.5倍という数字

3iはActionを上場させていません。なので評価額は3iが自分で決めます。方法は「直近12か月のランレート(直近の店舗数で平年化した)EBITDA」に倍率を掛けるやり方で、倍率は流動性のディスカウント後で18.5倍。前年から変えていません。6月末はEBITDA 27.3億ユーロ × 18.5倍、3iの持分65.4%で242.5億ポンドです。

感応度も書いてあります。倍率が1.0倍動くと、評価額が約15億ポンド動く。1株純資産の約5%です。

倍率の根拠は2つ。1つは「北米の上位4分の1のバリュー小売」など同業との比較。もう1つは、2025年9月と2026年1月にシンガポール政府系ファンドのGICからActionの株5.1%を、10月に既存の共同投資家から2.2%を買った取引が「すべて直前の公表評価額で成立した」ことです。第三者が同じ値段で売り買いしたのだから妥当だ、と。

ただ、GICからの5.1%分、17億ポンドは現金ではなく3iの新株で払っています。当時の3iの株価は純資産を大きく上回っていました。純資産より高い株で、純資産どおりの値段のActionを買った。持分は57.9%から65.4%に上がりました。

株価が純資産を下回った日

ここがこの記事で一番面白い所です。

通期決算の会長の文章に、こう書いてあります。「下期は株主にとって厳しい半年だった。株価は、特にこの2年で積み上がっていた純資産への大幅なプレミアムから調整した」。CEOの文章にも「パンデミック以来初めて、株価が下期に大きく下げた」とあります。

決算を報じた記事によると、2025年10月の3iの株価は4,302ペンスでした。半年後の2026年3月末の1株純資産3,030ペンスと比べても1.4倍です。投資会社の株価が純資産を4割上回るのは、市場が「3iの決めた18.5倍より高くていい」と言っていたのと同じです。

2026年5月14日、通期決算の日。決算そのものは22%の利益でしたが、同時に出た「5月10日までの既存店売上は+2.4%(前年同期は+6.8%)、フランスとドイツは横ばい」で、株価は一時19%安の1,971ペンス、2年半ぶりの安値を付けました。同じ日に3iは最大7.5億ポンドの自社株買いを発表し、財務責任者は理由を「株価と本質的価値の間に差がある」と説明しました。

今日の時点で計算すると、10月9日の終値は2,402ペンス。6月末の1株純資産3,131ペンスから7月に払った配当48ペンスを引いた3,083ペンスに対して、22%のディスカウントです。半年で1.4倍から0.78倍に動きました。

もう一つ計算してみました。時価総額は約241億ポンド。6月末のAction持分の評価額が242.5億ポンドなので、ほぼ同じです。Action以外の純資産約69億ポンド(他の投資先、3iN、フェリー、現金)をゼロと置いて、ようやく3iの付けたActionの値段になる。逆にAction以外を帳簿どおりとすると、市場が付けているActionの値段は約172億ポンド、倍率にして13倍前後です。7月以降の自社株買いで株数と純資産が動いているので目安ですが、市場と3iの間で、Actionの倍率に5倍分の差があります。

気になっていること

既存店売上の減速です。2024年+10.3%、2025年+4.9%、2026年1〜3月+3.6%、5月10日まで+2.4%。6月末までの上期は+3.6%に戻していて、CEOは「季節商品が6月に強く持ち直した」と言っています。ただ、5月の説明会での説明は「涼しい天候で園芸・屋外用品が3%減った。前年は熱波で27%伸びていた」「循環的なもので構造的ではない」でした。天気のせい、という説明を2四半期続けて聞いたことになります。既存店が伸びなくても出店で売上は14%伸びるので、数字は崩れません。崩れないからこそ、既存店の数字だけは自分で追うしかありません。

もう一つはEBITDA率です。2025年は14.8%、2026年1〜3月は12.4%、上期で13.3%。会社は「出店が第4四半期に集中するので下期偏重」と説明しています。前年の上期も13.3%だったので横ばいではあるのですが、通期14.8%に戻るかは11月まで分かりません。

それと、投資先33社の方の話が資料にほとんどありません。上位20社のうち利益が減った会社が4社(評価額11.6億ポンド)、負債がEBITDAの5倍を超える会社が3社(9.9億ポンド)。どれもActionの1%未満の金額で、だから資料でも1〜2行です。

次の決算で見る所

次は11月の上期決算です。日付は資料にありません。昨年は11月13日でした。例年9月にあるPEの投資家向けセミナーは「今年は開かない」と7月の更新に書いてあります。

見るのは3つ。Actionの第3四半期の既存店売上が+3.6%を保っているか、通年400店の出店目標に対する進捗、それと18.5倍を動かすかどうか。会社は「変えていない」と毎回書きますが、株価は半年前からそこを疑っています。

使った資料

組入比率は投資信託のデータと同じ2026年8月31日の月次レポートです。株価は書いた日のものです。

投資信託の名前は「世界のベスト」で、その1位がロンドンの投資会社で、その中身がオランダの日用品店でした。箱を3つ開けて、やっと商品が出てきた気分です。