前の記事を公開したのは10月27日でした。レーザーテック(6920)の決算を10月30日の前に読む。TSMCは今年の設備投資を600億〜640億ドルに置き、レーザーテックは今期の受注を3,000億〜4,000億円と見込むで、7〜9月の売上と営業利益の見立て、受注見通しが動くかどうか、決算をまたいだ株価の見立てを書き残しました。その決算が今日、10月30日15時45分、東証の取引が終わったあとに出ました。
速報はもう出ています。経常利益は46%減で市場予想を44%下回った、営業利益率は49.3%から39.1%に下がった、受注見通しは4,000億〜5,000億円に上がった。そこは一覧で済ませます。私が一番長く止まったのは、決算短信の貸借対照表の1行と、1on1 FAQの注記でした。前受金が3か月で427億円増えていて、会社はその前受金を「顧客への出荷時などに受領」と書いています。売上は減ったのに、装置は出ている。
使ったのは、今日出た2027年6月期第1四半期の決算短信、決算説明会資料、決算1on1 FAQ、会社が置いている財務ハイライトのExcel、それと速報の確認に株探の記事です。決算説明会は16時から機関投資家向けに開かれましたが、書き起こしはまだ出ていません。説明会の中身は読まないまま書きます。
前の記事で見ると書いた所
- 7〜9月の売上高: 見立ては560億〜700億円で中心620億円でした。実績は403億円。前年同期比-25.5%、4〜6月の609億円から-33.8%です。幅の下の端を157億円外しました。会社は「概ね当初の想定通り」と短信に書いています。想定していなかったのは私です
- 7〜9月の営業利益: 見立ては240億〜310億円で中心270億円。実績は157億円で前年同期比-41.0%。これも外れです
- 営業利益率は43.1%前後: 39.1%でした。研究開発費が47億円で売上の11.9%(前年同期は5.7%)。売上が小さいので比率が上がりました。通期の営業利益率43.1%の予想は据え置きです
- 受注見通しは3,000億〜4,000億円のまま: 外れました。上にです。4,000億〜5,000億円になりました。前の記事で、8月の説明会で社長が「上限の4,000億円はA200HiTが顧客の工場で良い結果を出して追加の注文が入った場合で、上振れ約500億円は精査した値ではない」と話していたのを引きました。今回の見通し変更の主因の1行目は「ロジック先端ファブ向け:A200HiT」です。精査していなかった500億円が、下限になりました
- 為替はほとんど効かない: 営業利益には効きませんでしたが、経常利益には効きました。営業外に為替差損12億6,000万円が立っています。前年同期は差益1億5,300万円でした。経常利益の減り幅(-45.8%)が営業利益(-41.0%)より大きい理由はこれです。感応度も更新され、1ドル1円の円安で営業利益9億円弱の増加(期初は10億円)になりました
- 11月2日の終値が10月30日の終値を上回る: 条件は受注見通しの下限3,000億円が上がることで、これは満たしました。結果は月曜日に出ます。今日の終値は37,700円で、発表前の取引で前日の41,340円から8.8%下げています
- 顧客がばらけること: 地域別の売上で、台湾向けが前年同期の60億円から93億円に増え、米国は220億円から143億円、韓国は144億円から69億円に減りました。3か月の数字ですが、TSMCのいる台湾だけが増えています
今回の決算の数字
- 売上高: 403億円。前年同期の541億円から-25.5%、4〜6月の609億円から-33.8%
- 品目別: 半導体関連装置238億円(-42.9%)、サービス160億円(+31.2%)、その他5億円。サービスが売上の39.7%です
- 売上総利益: 240億円、粗利率59.5%。前年同期は60.6%
- 営業利益: 157億円(-41.0%)、営業利益率39.1%
- 経常利益: 147億円(-45.8%)
- 純利益: 107億円(-43.7%)、1株利益119.72円。前年同期は211.46円
- キャッシュフロー: 営業391億円の収入(前年同期は59億円)、投資7億円の支出、財務176億円の支出。財務はほぼ配当です
- 現金及び預金: 1,107億円、6月末から+192億円
- 通期予想: 売上2,900億円、営業利益1,250億円、純利益900億円、年間配当351円。すべて据え置き
- 受注見通し: 4,000億〜5,000億円。期初は3,000億〜4,000億円
前受金が3か月で427億円増えた
貸借対照表の前受金は、6月末の442億円が9月末に870億円です。増えた427億円は、財務ハイライトのExcelにある2018年10〜12月以降の四半期の系列で、1四半期の増え方として最大でした。残高の870億円も、2023年7〜9月の994億円以来の高さです。
ここで効くのがFAQの注記です。前受金は「顧客への出荷時などに受領」。注文のときではなく、出荷のときです。つまり前受金が427億円増えたのは、7〜9月に装置が顧客に向けて出ていったからです。売上はそのあと、顧客の検収で立ちます。短信の収益認識の注記では、半導体関連装置の売上238億円のうち209億円が「一時点で移転」で、その一時点が検収です。
生産の数字も同じことを言っています。7〜9月の生産高は895億円で、前年同期の457億円から+95.5%。半導体関連装置だけなら723億円作って、売上に立ったのは238億円です。3倍作って1を売った。差は仕掛品に積まれ、仕掛品は1,380億円で6月末から+156億円です。
営業キャッシュフローは391億円の収入で、売上403億円の97%に当たります。キャッシュフロー計算書の内訳では前受金の増加が435億円で、これが押し上げました。売上と利益が減った四半期に、お金は一番入っています。
FAQの最初の問いは「通期予想に対する売上利益の進捗が遅い印象だが、想定通りか」でした。会社の答えは「従来から今期中に検収を見込んでいた製品については、当初の想定通り検収いただける見込み」。売上の進捗は通期の13.9%。会社はこれを遅いとは言わず、検収がこのあとに来ると言っています。
私の見立ての外れ方は、ここで説明がつきます。4〜6月に609億円の売上が立ったあとの四半期は、出荷は進んでも検収は少ない。「前年並みからやや上」と置いたのが間違いでした。
受注見通しの上限が下限になり、MATRICSには採算の低い装置が混ざる
受注見通し4,000億〜5,000億円の主因として、説明会資料は3つを挙げています。ロジックの先端ファブ向けのACTIS A200HiT、マスクショップ向けのACTIS A300、EUVとDUVのマスク向けのMATRICS。A300は前の記事に出てこなかった名前で、資料に説明はありません。事業環境には、1.4ナノ相当の技術開発と、ロジックとメモリー各社でHigh NA EUV露光機の導入計画が具体化していることが書かれています。
生産できるのか、という問いにも答えています。中期経営計画の財務目標である売上4,000億〜5,000億円の規模に対して、現状の自社と協力会社のリソースで「概ね対応可能」。ただし「一部の部材が長納期化しており、生産リードタイムが長期化している」。前受金で押さえられた装置が、どれだけ早く検収まで進むかは、ここにかかります。
もう1つ、説明会資料の4ページに小さく書かれていることがあります。「MATRICSの性能改善を実施しており、これに伴い採算性の低い装置が複数台今期に売上計上予定であることから売上総利益率に影響する見込み」。台数も金額も書いていません。通期予想は変えない、来期への影響は無い、とだけ添えてあります。
前の記事で、前期の受注はDUVのMATRICSがEUVのACTISを上回った、と書きました。その伸びている方で、採算の低い装置が今期に通ります。7〜9月の粗利率59.5%にはまだ出ていません。性能改善が済んだ装置を顧客が待っていたのか、改善の前に受けた注文を値段そのままで納めるのか、資料には書いてありません。説明会で聞かれているはずです。
次の決算で見る所
次は10〜12月期で、前の年は1月30日に出ました。会社の予定表にはまだ載っていません。
- 前受金870億円がどれだけ売上に変わるか: 検収が進めば前受金は減り、売上が立ちます。12月末の前受金と、10〜12月の売上を並べて読みます。通期の売上2,900億円に対して、残り9か月で2,496億円が要ります
- 粗利率: MATRICSの採算の低い装置が通る四半期は、粗利率が7〜9月の59.5%より下がるはずです。何ポイントかで、台数の見当がつきます
- 台湾向けの売上: 7〜9月の93億円が続くか。TSMCの設備投資がどこまで届くかを見ています
- 受注見通し4,000億〜5,000億円: 3か月で1,000億円上げた見通しが、次に動くならどちらへか
- 株価: 11月2日の終値が37,700円を上回るか。結果は次の記事に書きます
使った資料
- レーザーテック、2027年6月期 第1四半期 決算短信(2026年10月30日、PDF)
- 同、第1四半期 決算説明会資料(PDF)
- 同、第1四半期 決算 1on1 FAQ(PDF)
- 同、財務ハイライト(Excel。四半期の系列)
- 株探、レーザーテックの7-9月期決算速報(2026年10月30日)
株価は書いた日のものです。見立てを外したのは私で、外した理由は短信の9ページ目とFAQの1ページ目に書いてありました。次は検収から読みます。
この会社は半導体の地図の「製造装置」にいます。