前の記事を公開したのは10月26日でした。イビデン(4062)の決算を10月29日の前に読む。エヌビディア向けが売上の29.4%になり、エヌビディアは大野の工場に数十億ドルを前払いしているで、7〜9月の売上と営業利益の見立てと、決算をまたいだ株価の見立てを書き残しました。その決算が今日、10月29日15時20分に出ました。東証の取引が終わる10分前です。
速報はもう出ています。通期の営業利益の予想を1,270億円から1,330億円に上げた、中間配当を7.5円から10円にした。そこは一覧で済ませます。私が一番長く止まったのは、決算短信の貸借対照表とキャッシュフロー計算書でした。前払いで入ってきたお金と、工場に使ったお金が、釣り合っていません。
使ったのは、今日出た2027年3月期第2四半期の決算短信、決算短信補足資料、通期予想の修正と中間配当のお知らせ、河間事業場の設備投資のお知らせ、それと比べるための前の期の短信と補足資料、8月の第1四半期の質疑応答です。決算説明会は開かれる予定ですが、資料も質疑もまだ出ていません。説明会の中身は読まないまま書きます。
前の記事で見ると書いた所
- 7〜9月の売上高: 私の見立ては1,300億〜1,400億円で中心1,350億円、会社予想からの逆算は1,303億円でした。実績は1,393億円。前年同期比+42.1%、4〜6月から+13.1%。私の幅の上の端で、会社の逆算を90億円上回りました
- 7〜9月の営業利益: 見立ては270億〜320億円で中心290億円、会社の逆算は276億円。実績は332億円で、幅の上を12億円超えました
- 営業利益率: 21.5%前後と書きましたが、23.9%でした。4〜6月の21.8%から下がる計算を会社の数字から出していましたが、逆に2.1ポイント上がりました
- 為替は追い風にならない: 半分外れです。上期の平均レートは1ドル159円で、4〜6月の158円とほぼ同じ。ただ会社の8月の予想は通期152円で、残り9か月を単純に計算すると150円でした。実際は160円近くだったので、会社の予想に対しては円安が上振れの理由になり、修正のお知らせにもそう書いてあります
- 値段で上に振れる: 8月の質疑では利益の上振れ265億円が「主に売価要因」でした。今回の修正の理由は「高付加価値製品の受注増加及び製品構成の良化に加え、為替」で、売価という言葉が消えています。値上げが止まったのか、言い方を変えただけなのかは、資料からは分かりません。説明会で聞かれるでしょう
- 減価償却が利益を削る: 外れです。7〜9月の減価償却費は183億円で、4〜6月の176億円から7億円しか増えていません。私は211.7億円を見ていました。通期計画810億円は据え置きなので、下期に451億円、四半期あたり225億円が来ます。削られるのは下期でした
- 上期: 売上2,625億円、営業利益601億円。会社の上期予想を売上で90億円、営業利益で56億円上回りました
- 通期の営業利益予想が1,270億円から上がるか: 上がりました。1,330億円で+4.7%です
- 株価は10月30日の終値が10月28日の終値を上回る: 明日の話なのでまだ分かりません。今日29日の終値は9,859円で、28日の9,663円を2.0%上回り、日中は10,280円まで上げました。条件だった予想の引き上げは出ました。結果は次の記事に書きます
- 前受金: 6月末の1,545億円が、9月末は1,997億円になりました。これが今回の主役です
今回の決算の数字
7〜9月の3か月は、中間期の累計から4〜6月を引いた数字です。
- 売上高: 1,393億円。前年同期比+42.1%、前の四半期比+13.1%
- 営業利益: 332億円。前年同期比+122.5%。営業利益率23.9%
- 純利益: 207億円。前年同期の93億円から+121.1%
- 電子事業: 売上950億円(前年同期比+65.9%)、営業利益287億円(+151.3%)、営業利益率30.2%。全社の営業利益の86.2%です
- 中間期: 売上2,625億円(+34.3%)、営業利益601億円(+84.6%)、純利益386億円(+74.8%)。1株利益68.63円
- 通期予想: 売上5,650億円、営業利益1,330億円、純利益890億円、1株利益157.17円。電子事業は営業利益1,140億円で利益率29.6%
- 配当: 中間10円。年間20円の予想。配当性向20%を目安と書いていますが、20円は予想1株利益の12.7%です
前払いは来たが、工場はまだ建っていない
貸借対照表の流動負債に「前受金」があります。顧客から先に受け取ったお金で、まだ売上にしていない分です。3月末に809億円だったのが、6月末に1,545億円、9月末に1,997億円。半年で1,188億円増えました。
キャッシュフロー計算書では、上期の営業活動で入ってきたお金が1,932億円で、前年同期の367億円から5倍以上です。内訳で一番大きい行が「前受金の増減額」の1,188億円。営業キャッシュフローの61.5%は、利益ではなく前払いです。現金及び預金は9月末で4,205億円になりました。
一方で、工場に使ったお金です。上期の設備投資は434億円。4〜6月が201億円、7〜9月が233億円。通期の計画は2,100億円で据え置かれているので、下期に1,666億円を使う計算になります。上期は計画の20.7%しか使っていません。貸借対照表の建設仮勘定(建てている途中の工場)は3月末の1,118億円から1,262億円に144億円増えただけです。
前払いで入ってきた1,188億円のうち、工場に変わったのは、上期の設備投資434億円が全部そうだとしても36.6%です。残りは現金で座っています。設備は発注から据え付けまで時間がかかるので、それ自体は悪い話ではありません。ただ、下期に上期の3.8倍を使わないと2,100億円の計画に届きません。遅れているのか、もともと下期に寄せた計画なのかは、資料に書いてありません。これも説明会で聞かれる所です。
前の記事で、NVIDIAが大野事業場に「数十億ドル規模」を前払いしていると書きました。1,188億円を上期の平均レート159円で割ると約7.5億ドルで、数十億ドルには届いていません。イビデンの開示に顧客の名前は無いので、いくらがNVIDIAからかも分かりません。NVIDIAの発表どおりなら、前受金はこれからもっと増えるはずです。
新しい1,510億円はCPU向け
同じ日に、設備投資のお知らせがもう1本出ました。河間事業場の工場棟(Cell6)とその他海外工場に約1,510億円を投じ、2029年度から順次稼働させる計画です。
目的の書き方が前と違います。2月の5,000億円の計画は「AIサーバー、及び高性能サーバー向け」で、前の記事に書いたとおり河間はAI ASIC向け、大野はAI GPU向けでした。今回は「AIが学習型から推論型、そしてエージェントAIへと進化していく中で、需要の増加が見込まれるCPU向け高機能ICパッケージ基板」です。GPUの会社から前払いを受けている会社が、新しいお金はCPU向けに積みました。
この1,510億円が2月の5,000億円の中か外かは、お知らせに書いてありません。5,000億円は2026〜2028年度の枠で、今回の稼働は2029年度からなので、私は外に積んだと読んでいます。合わせて6,510億円。2026年3月期の売上4,162億円より大きい金額です。
CPUの顧客も書いてありません。有報で名前が出る顧客はNVIDIAとIntelの2社で、Intel向けは753億円で横ばいでした。8月の質疑には「GPUだけではなく、AIサーバー向けのスイッチICやハイエンドCPUの需要が増加している」とあり、今回の修正の理由にも「スイッチIC向け製品の需要拡大」が入っています。前の記事で気になっていた顧客の偏りが薄まるかは、顧客が分からない以上、まだ言えません。
下期の予想は1ドル149円で組んでいる
通期予想から上期の実績を引くと、下期は売上3,025億円、営業利益729億円、営業利益率24.1%です。四半期あたりでは売上1,512億円、営業利益364億円。7〜9月の1,393億円、332億円から売上で+8.6%、営業利益で+9.8%の計算です。
為替の前提が通期154円で、上期が159円だったので、下期は149円で組んでいることになります。7〜9月は160円近くでした。11円の円高を見込んだ上で、営業利益率は7〜9月より上がる予想です。感応度は今回も資料に無いので、円高がいくら利益を削るかは計算できません。電子事業の下期は利益率30.1%で、7〜9月の30.2%を円高の前提で保つ予想です。8月の修正が+41%、今回が+4.7%で済んでいるのは、この前提の置き方も入っていると思います。
次の決算で見る所
第3四半期の発表日はIRカレンダーにまだ無く、前の年は2月3日でした。
- 前受金: 9月末の1,997億円から増えるか。増えなければ前払いは一巡したことになる
- 設備投資の進み: 10〜12月の設備投資額。通期2,100億円に向けて四半期で500億円以上使っているか
- 為替: 1ドル149円の前提に対して、実際のレートと、予想の修正があるか
- 売価の言葉: 説明会の資料と質疑で「売価」が戻ってくるか。製品構成だけで利益率30%を保てるか
- 1,510億円の中身: CPU向けの顧客と、5,000億円との関係。説明会で出れば書き足します
- 株価の見立て: 10月30日の終値が9,663円を上回ったか
説明会で分かったこと(10月30日に追記)
説明会は10月30日で、資料は29日の夕方に会社のサイトに置かれました。17ページのスライドで、質疑応答の書き起こしはまだ出ていません。資料に書いてあることだけで、記事で説明会に回した問いに答えます。
売価の言葉は、資料のどこにも出てきません。利益の増減要因を分けたページ自体が無く、上期の実績と下期の見通しを並べた図だけです。製品構成で利益率30%を保つのか、値上げが続いているのかは、質疑応答が出るまで分かりません。
設備投資は「検収額」の図があり、2026年度の2,100億円は据え置き、うち電子事業が2,000億円です。上期の434億円が遅れなのか下期寄せなのかは資料に無く、代わりに2027年度の検収額が3,500億円と出ました。今年度の1.7倍です。減価償却費は2027年度に900億円で、電子事業の売上に対する償却費率は18.4%から17.0%に下がる見通しです。償却より売上の方が速く伸びる前提です。
1,510億円は、河間事業場のCell6の建屋の容積を使い切る追加投資でした。表には河間Cell6が既発表2,200億円と今回追加1,500億円、大野Cell8が既発表2,800億円と並んでいます。2,200億円と2,800億円を足すと5,000億円なので、今回の分は2月の枠の外です。私の読みどおりでした。ただ、生産品目の欄は「AI ASIC向け」のままで、お知らせにあった「CPU向け」という言葉は表にありません。顧客の名前も無し。Cell7とCell9を含む次の投資は「顧客と詳細条件を固め、2026年度中に決定・開示を目指す」とあり、大野Cell8も建屋の容積を使い切る追加を検討中と書いてあります。
為替の下期の前提は1ドル150円、1ユーロ180円でした。私は通期154円から149円と逆算しましたが、会社の数字は150円です。前受金は資料に一行もありません。
新しい数字は中期の見通しです。2027年度の営業利益を5月の1,500億円から1,650億円に上げ、売上6,500億円は据え置きました。電子事業の営業利益が1,330億円から1,440億円に増えた分が、ほぼそのまま乗っています。その先に、2030年度の目標として売上1兆円以上、営業利益3,000億円以上、営業利益率30%が初めて出ました。根拠として付いているのは、ICパッケージ基板の面積ベースの需要(SAP総需要)が2026年を100として2030年に350になる見通しと、国内の生産能力を2030年に2倍にする計画です。AI GPUとASICは市場の個数が1.8倍でも、基板の面積需要は5.4倍という計算です。サーバー向けハイエンドCPUの需要見通しも5月から引き上げています。前の記事で気にしていた顧客の偏りについて、顧客の名前はやはり出ませんが、会社が見ている需要の先はGPUだけではなくなっています。
下期の内訳も出ています。電子事業は売上2,125億円、営業利益640億円で、上期から売上+23%、営業利益+28%。セラミック事業は営業利益21億円で、上期の54億円から61%減る予想です。配当は、配当性向20%を目安に累進配当を2030年度まで続けると書いてあります。
使った資料
- イビデン、2027年3月期 第2四半期(中間期)決算短信(2026年10月29日、PDF)
- 同、決算短信補足資料(2027年3月期 第2四半期、PDF)
- 同、通期連結業績予想の修正及び剰余金の配当(中間配当・増配)に関するお知らせ(PDF)
- 同、高機能ICパッケージ基板向け設備投資(固定資産の取得)に関するお知らせ(2026年10月29日、PDF)
- イビデン、2027年3月期 第1四半期 決算短信(2026年8月4日、PDF)
- 同、決算短信補足資料(2027年3月期 第1四半期、PDF)
- 同、主な質疑応答(2026年度第1四半期、PDF)
- イビデン、2026年3月期 決算短信(2026年5月11日、PDF)
- 同、決算短信補足資料(2026年3月期、PDF)
- イビデン、決算短信補足資料(2026年3月期 第3四半期、2026年2月3日、PDF)
- イビデン、2026年3月期 第2四半期決算短信(2025年10月30日、PDF)
- イビデン、高機能ICパッケージ基板向け設備投資に関するお知らせ(2026年2月3日、PDF)
- 同、(経過開示)高機能ICパッケージ基板向け設備投資に関するお知らせ(2026年2月26日、PDF)
- イビデン、IRカレンダー
- イビデン、IRライブラリー 決算説明会資料
- Yahoo Finance、イビデン(4062.T)の株価履歴
- イビデン、2026年度 第2四半期 決算説明会資料(2026年10月30日、PDF)
株価は書いた日のものです。前払いの1,188億円が工場の姿になるのは早くて来年で、今は金庫に入っています。それを見て安心するか、まだ建っていないと見るかは、読む人しだいです。私は後者で、だから次も前受金の行から読みます。
この会社は半導体の地図の「材料・基板」にいます。