イビデン(4062)の決算を10月29日の前に読む。エヌビディア向けが売上の29.4%になり、エヌビディアは大野の工場に数十億ドルを前払いしている
米国の決算から日本株を読むシリーズの4本目は、イビデンです。キオクシア、アドバンテスト、東京エレクトロンと書いてきて、所長から「組入銘柄とつながる日本株を一覧にしてくれ」と言われました。一覧を作り、つながりが会社の資料に本当に書いてあるかを1件ずつ確かめたところ、数字ではっきり言えるのがイビデンでした。エヌビディア向けの売上が、有価証券報告書に名前と金額つきで載っています。
今回から書き方も変えました。記事に使う数字は、先に一次資料から1行ずつ取材シートに並べ、出典の原文を写しておきます。シートに無い数字は書きません。書き終わったら、本文の数字がシートにあるか、写した原文が出典に本当にあるかを機械で照合します。Xの返信で、決算日を株価サイトの表示どおりに書いて間違えたことがあり、その手当てです。
取材の段階で、私の思い込みが2つ外れました。電子事業にはプリント配線板も入っていると思っていましたが、今の有報では電子事業はパッケージ基板だけです。新しい工場は大垣中央事業場だと思っていたら、2025年度に量産を始めた新工場は大野事業場でした。どちらも知識で書いていたら、そのまま記事に載っていたところです。
使ったのは、イビデンの有価証券報告書(2026年6月)、決算短信と補足資料、決算説明会の資料と質疑応答、適時開示、エヌビディアの決算資料とプレスリリース、台湾のユニマイクロンとオーストリアのAT&Sの開示、それと株価と信用残の公開ページです。株価は10月26日(月)の終値で書きます。
どんな会社か
事業は3つです。電子事業はICパッケージ基板の製造販売。CPUやGPUのチップを載せて、マザーボードとつなぐための基板です。セラミック事業は環境関連のセラミック製品や特殊炭素製品など。その他は建設や建材、合成樹脂の加工などです。電子事業の国内の工場は、岐阜県の大垣市と大野町にあります。
2026年3月期の売上高は4,162億円で、電子事業が2,433億円、セラミック事業が825億円、その他が903億円。売上の58.5%が電子事業ですが、営業利益で見ると620億円のうち452億円、73%を電子事業が稼いでいます。電子事業の営業利益率は18.6%で、前の期の13.6%から上がりました。セラミック事業は営業利益が76億円で、前期比-37.4%です。
会社の製品ページには、パソコンやデータセンター用サーバーの高機能化・高速化で、基板に大型化・高多層化・微細化が求められていると書かれています。AIのチップは大きく、配線の層も多い。基板1枚を作る手間が増えるので、同じ数のチップでも基板の工場は余計に要ります。会社は5月の説明会で、AIサーバー向け基板の生産負荷を、2024年を1.0として2026年に1.8倍、2028年に2.5倍と見積もっていました。
エヌビディアが最大の顧客になった
有報の「主要な相手先別の販売実績」には、売上の10%以上を占める顧客の名前と金額が載ります。
2026年3月期のNVIDIA向けは1,224億円で、売上の29.4%。前の期の750億円から+63.1%です。前の期はIntelが767億円、20.8%で最大の顧客で、NVIDIAは2番目でした。順番が入れ替わっています。AMDは前の期に407億円、11.0%で名前が出ていましたが、2026年3月期は10%未満になって記載がありません。取引が続いているかどうかは、この開示からは分かりません。
NVIDIA向けの1,224億円は、電子事業の売上2,433億円の50.3%にあたります。電子事業の売上の約半分が1社向けです。NVIDIAとIntelの2社で、会社全体の売上の47.5%になります。
地域別の売上も動いています。台湾向けが584億円から1,114億円へ+90.6%。ただ、有報の地域別は顧客の所在地で分けているので、台湾向けをそのままNVIDIA向けと読むことはできません。どの国に計上されるかは取引の形しだいで、資料からは分かりません。
4〜6月の数字
- 売上高: 1,232億円。前年同期比+26.4%
- 営業利益: 269億円。前年同期比+52.4%、営業利益率21.8%
- 純利益: 179億円。前年同期比+40.8%
- 電子事業: 売上775億円(+37.7%)、営業利益214億円(+52.4%)、営業利益率27.6%
- 想定為替: 1ドル158円。前年同期は145円
営業利益の79.5%が電子事業です。会社の説明では、生成AI用サーバー向けと汎用サーバー向けの受注が堅調で、昨年度に量産を始めた大野事業場の生産が安定し、販売数量が期初の計画を上回りました。
会社は8月4日に予想を上げました。通期は売上高5,000億円から5,500億円、営業利益900億円から1,270億円です。前期比で営業利益は+104.7%、2倍になる予想です。電子事業だけで営業利益は750億円から1,100億円に上がり、利益率は29.3%を見込んでいます。
上げた理由のうち、私が一番重いと思ったのは値段です。電子事業の利益の上振れ350億円のうち265億円が、売価と製品構成の要因だと説明会の質疑で答えています。四半期ごとの価格交渉で値段を保ちやすく、業界全体の供給不足で基板の平均価格が想定以上に上がった、と。数量が増えて儲かっているのではなく、足りないから高く売れている。
上期の予想は売上高2,535億円、営業利益545億円です。そこから4〜6月の実績を引くと、7〜9月の会社予想は売上高1,303億円、営業利益276億円になります。前年同期比で売上+32.9%、営業利益+84.9%。前の四半期からは売上+5.7%で、営業利益率は21.2%と4〜6月の21.8%より少し下がる計算です。8月4日のあと、予想の修正は出ていません。
エヌビディアは大野の工場に数十億ドルを前払いしている
NVIDIAの10-Kと10-Qには、イビデンの名前は出てきません。名前が出るのは10月21日のプレスリリースです。
NVIDIAは、イビデン、サムスン電機、ユニマイクロンとの基板の契約で、今後3年で基板の生産能力を合計2.5倍にすると発表しました。イビデンについては、今年イビデンが締結・発表した契約のもとで、大野事業場に数十億ドル規模の生産能力の予約金を前払いしていると書いています。大野の能力を今の3倍にし、追加分は2028年第1四半期に立ち上がり始める予定です。CEOのジェンスン・フアンの言葉は「需要は並外れている。生産能力が制約だ」でした。
イビデンの側の数字を見ると、合っています。イビデンは2月に、2026〜2028年度の3年間で電子事業に約5,000億円を投資すると決めました。河間事業場(Cell6)を中心に約2,200億円、大野事業場(Cell8)を中心に約2,800億円で、河間はAI ASIC向け、大野はAI GPU向けの基板を作ります。投資は顧客と契約して投資相当額を負担してもらい、一部は前払いで受け取る、と5月の質疑で説明しています。6月末の貸借対照表では、前受金が3月末の809億円から1,545億円に、736億円増えました。
ただし、イビデンの開示には前払いをした顧客の名前がありません。736億円の前受金がNVIDIAからのものだと結び付けるのは、NVIDIAの発表と時期からの私の推測です。
2028年第1四半期が暦年なのか、NVIDIAの会計年度なのかも書かれていません。イビデンの開示は「2027年度より順次稼働」で、イビデンの2027年度は2027年4月から2028年3月です。どちらにしても、今の大野の能力が3倍になるのは早くて1年半後。会社自身も5月に、人的リソースと時間の問題で、2028年度までは今の計画以上に能力を増やすのは難しいと答えています。それまでは、今ある工場でどれだけ作れるかで売上が決まります。
NVIDIAの側の需要は、5〜7月のデータセンター売上が890億ドルで前年同期比+117%。8〜10月の売上見通しは1,080億ドルで、前の四半期から約+12.2%です。CFOは決算説明会で、2028年度の売上を約70%伸ばす見通しを示し、それは供給の制約を織り込んだ数字だと言いました。顧客の予測どおりなら成長は倍になる、とも。基板はその制約の1つです。
同業も足りていない
台湾のユニマイクロン(欣興電子)は月次で売上を出しています。7〜9月の3か月の合計は526億台湾ドルで、前年同期比+54.9%。9月だけなら+64.66%で、備考には「生産能力と顧客需要の増加」とあります。4〜6月の四半期決算では、ABF基板が売上の52%で前年同期比+51%、AIデータセンター向けが61%で+71%でした。月次の合計は四半期決算と集計の範囲が違うことがあるので、前の四半期との比較は参考程度にとどめます。
オーストリアのAT&Sは、4〜6月の売上が5億4,870万ユーロで、為替を調整して+40%、EBITDAマージンは30.1%でした。顧客のAMDなどとの合意で、マレーシアのクリム工場を拡張し、投資の15億〜20億ユーロは顧客の長期の約束で全額まかなうとしています。顧客にお金を出させて工場を建てる形は、イビデンとNVIDIAの関係と同じです。日本の同業だった新光電気工業は、2025年6月6日に上場廃止になっていて、もう決算を見られません。
調査会社カウンターポイントは3月のレポートの概要で、基板メーカーが2026年上期に四半期あたり3〜5%の値上げをすると見ていました。新しい工場が来るのは2027年で、それまで20%の供給不足になる、と。イビデンの質疑の「基板の平均価格が想定以上に上昇」と同じ方向です。
株価と需給
株価は10月26日の終値で8,248円です。年初からは+145.1%。この1年で2回、1株を2株に分けていて、2026年1月1日と10月1日です。この記事の株価は、どれも分割を調整した値で書きます。発行済み株式数5億6,389万株を掛けた時価総額は約4.65兆円。会社予想の1株利益149.68円で割ったPERは55.1倍です。
7月1日に日中の高値13,740円を付け、そこから40.0%下げました。終値の最高値は6月22日の13,212.5円です。10月26日の終値は25日線(10,502円)を21.5%、75日線(9,855円)を16.3%下回り、200日線(7,641円)の上にあります。
10月に入ってからの下げは2回が大きく、10月15日に-12.22%、10月22日に-9.49%でした。株探の記事では、15日は米国でコアウィーブの社債が急落し、フィラデルフィア半導体株指数が4%を超えて下げたのを受けて、AIと半導体の株が売られたとされています。22日もフィスコの記事では、半導体関連株安へのつれ安です。イビデン固有の悪い材料は、開示からは見当たりません。
信用取引の買い残は10月23日時点で431万9,200株、売り残は82万6,600株で、倍率は5.23倍(株探)。10月16日は買い残402万500株、倍率4.29倍でした。下げの中で買い残が積み上がっています。買い残は発行済み株式の0.77%なので、それだけで株価が決まる量ではありません。ただ、決算で上げたときに戻り売りに回る分ではあります。
過去4回の決算の翌営業日の値動きは、2025年10月が+7.5%、2026年2月が-14.2%、5月が+5.7%、8月が+24.5%です。8月は予想を上げた決算で、翌日は終値が高値でした。2月は唯一の下げで、発表は15時30分、取引の終了と同じ時刻でした。
今回は発表の時刻に注意が要ります。10月29日(木)15時20分の発表で、東証の午後の取引は15時30分まで続きます。取引が終わる10分前に数字が出る。過去4回は15時30分か15時40分でしたが、今回は29日のうちに一部の反応が出ます。
7〜9月の見立て
決算は10月29日(木)15時20分の発表です。会社の投資家向けページのIRカレンダーで確かめました。四半期の市場予想は、無料で見られるページが見つかりませんでした。
| 項目 | 会社予想(逆算) | 私の見立て |
|---|---|---|
| 売上高 | 1,303億円 | 1,300億〜1,400億円 |
| 営業利益 | 276億円 | 270億〜320億円 |
| 営業利益率 | 21.2% | 21.5%前後 |
中心は売上1,350億円、営業利益290億円です。
組み立ては3段です。
- 為替は追い風になりません。Yahoo!ファイナンスの日々の終値から計算したドル円の平均は、4〜6月が159.37円、7〜9月が159.33円で、ほとんど同じです。会社が4〜6月の実績に使ったレートは158円でした。為替の感応度は、会社の資料のどこにも出ていません
- 売上は値段で上に振れると見ます。四半期ごとの価格交渉で平均価格が上がっていると会社は言っていて、7〜9月にも同じ交渉があります。数量は能力が上限なので大きくは伸びません。会社の逆算の+5.7%に対して、前の四半期から+9.6%の1,350億円を中心に置きました。ユニマイクロンの7〜9月の伸びは、それよりずっと大きいです
- 利益は減価償却が削ります。通期の減価償却費の計画は810億円で、4〜6月は175億円でした。残り3四半期の平均は211.7億円で、4〜6月より約37億円多い。売上の増加分118億円のうち半分が値上げで利益に残るとして59億円、そこから減価償却の増加37億円を引いて、269億円に足すと約290億円です
7〜9月が私の中心どおりなら、上期は売上高2,582億円、営業利益559億円で、会社の上期予想を少し上回ります。
株価の見立ては、10月30日の終値が10月28日の終値を上回る、です。発表が29日の取引時間中なので、28日の終値と比べます。条件は、通期の営業利益の予想が1,270億円から上がること。上がらなかったら、逆に下げると見ます。8月の+24.5%は予想を上げた決算の翌日でした。高値から40.0%下げたところで、買い残も積み上がっています。予想の上方修正が無ければ、その買い残が売りに回ると思います。外れたら外れたと次の記事に書きます。
気になっていること
顧客の偏りです。電子事業の売上の約半分がNVIDIA向けで、NVIDIAは前払いで大野の能力を押さえています。前払いは工場を建てるお金を顧客が出してくれる仕組みですが、裏を返せば、その能力はNVIDIAのために使う約束です。Intel向けは767億円から753億円で横ばい、AMD向けは10%未満に下がりました。イビデンの売上が伸びるほど、NVIDIAの発注の波を直接かぶる会社になっていきます。
もう1つは、シェアの話です。イビデンは5月の質疑で、インターポーザー型の基板について、新世代の製品が立ち上がるときは100%近いシェアを取り、3か月から半年で2〜3割落ちる想定だと答えています。NVIDIAがサムスン電機を新しく基板の供給網に入れ、ユニマイクロンの増強も支えるのは、1社に頼らないためでもあるはずです。値段が上がっているのは足りないからで、足りなくなくなる2028年以降に同じ値段で売れるかは、今の数字からは読めません。
使った資料
- イビデン、有価証券報告書(2026年3月期、EDINET、PDF)
- イビデン、2027年3月期 第1四半期 決算短信(2026年8月4日、PDF)
- 同、決算短信補足資料(PDF)
- 同、業績予想の修正に関するお知らせ(2026年8月4日、PDF)
- 同、株式分割に関するお知らせ(2026年8月4日、PDF)
- 同、2026年度第1四半期 決算説明会資料(2026年8月5日、PDF)
- 同、主な質疑応答(2026年度第1四半期、PDF)
- イビデン、2026年3月期 決算短信(2026年5月11日、PDF)
- 同、決算短信補足資料(PDF)
- 同、予想値と実績値との差異及び減損損失のお知らせ(PDF)
- 同、2025年度 決算説明会資料(PDF)
- 同、主な質疑応答(2025年度第4四半期、PDF)
- イビデン、設備投資に関するお知らせ(2026年2月3日、PDF)
- イビデン、設備投資に関するお知らせ(2026年2月26日、PDF)
- イビデン、株式分割に関するお知らせ(2025年10月30日、PDF)
- イビデン、IRカレンダー
- イビデン、電子事業 ICパッケージ基板の製品ページ
- NVIDIA and Supply Chain Partners Expand Capacity to Accelerate AI Infrastructure Buildout(2026年10月21日)
- NVIDIA、2027年度第2四半期 CFOコメンタリー(PDF)
- NVIDIA、2027年度第2四半期 決算説明会の書き起こし(PDF)
- NVIDIA、Form 10-Q(2026年7月26日までの四半期、SEC EDGAR)
- Unimicron、2026年第2四半期 決算説明会資料(PDF)
- 台湾証券取引所 公開資訊観測站、上場会社の月次売上(2026年7月)・8月・9月
- AT&S、2026/27年度第1四半期の発表
- 日本取引所グループ、新光電気工業の上場廃止
- 日本取引所グループ、立会時間
- Counterpoint Research、基板の供給不足についてのレポートの概要
- 株探、イビデンの株価と信用残
- 株探、10月15日の記事・10月23日の記事(前日に動いた銘柄、フィスコ)