盆栽の素材を増やすための基本的な手法が挿し木と実生です。挿し木は親木と同じ性質の個体を、実生は種から新たな個体を育てることができます。この記事では、赤松やモミジ、桜類など多様な樹種を対象に、それぞれの作業の適期や手順、成功のコツを解説します。
挿し木・実生とは
挿し木は、親木の枝などを切り取って土に挿し、発根させて新しい個体を作る方法です。親木と全く同じ性質の木を増やすことができます。実生は種から植物を育てる方法で、一度に多くの苗を得られる可能性があります。
杜松は挿し木で容易に増やすことができ、早く素材を作れます。ハナカイドウは取り木をすると幹元が太くなり、貫禄が出ます。ゴムの木系は一般的に実生の方が根が太りやすいですが、種類や個体差があります。
適期の見極め
樹種ごとに作業に適した時期は異なります。
* 赤松(実生): 3月〜4月が最も適しており、9月〜10月も可能です。
* 長寿梅(挿し木): 新芽が出る前、6月の入梅期、9月〜10月。
* ドウダンツツジ(挿し木): 2月〜3月または6月〜8月。
* 五葉松(接木): 3月(芽接ぎ)。
* ハナカイドウ(接木): 開花前の3月。
* イロハモミジ(挿し木): 3月〜4月。
* キンシナンテン(挿し木): 3月中旬〜下旬。ナンテン類は梅雨時も適期です。
* モミジ(挿し木): 清姫モミジは梅雨の時期が最適です。
* ニレケヤキ(実生): 12月〜1月頃の真冬。
* 庭桜(挿し木): 花が咲く前の2月頃、または花後の6月〜7月。
* 大島桜(挿し木): 3月上旬〜中旬(芽が吹く前)、または5月下旬〜7月上旬(その年に伸びた新梢)。
* 大島桜(実生): 5月〜6月に採種してすぐ撒くか、11月〜翌2月の間に撒きます。
* パンダガジュマル(挿し木): 5月か9月。
* パンダガジュマル(実生): 5月〜7月。
* 桜(挿し木): 3月〜4月。
* 桜(実生): 12月〜1月。
* 枝垂れ桜(挿し木): 6月〜7月頃。
* 真柏(挿し木): 3月〜9月。
* 杜松(挿し木): 8月。
* ヤマモミジ(挿し木): 3月頃(古枝挿し)、6月〜7月頃(新梢挿し)。
* ヤマモミジ(実生): 3月下旬〜4月の発芽に合わせて行います。
* 山桜(挿し木): 2月下旬〜3月中旬(ペットボトル密閉挿し)。
手順と判断基準
作業の成否は、適切な手順と判断にかかっています。
実生(種まき)の手順
赤松の種は、まく前に冷蔵庫で1〜2ヶ月程度の低温処理を行うと発芽が促進されます。山桜の種も、水に一晩浸してから湿らせた水苔と一緒に冷蔵庫で2ヶ月ほど保存する層化処理が有効です。ケヤキの種子は、翌春の種まきまで暗い場所で乾燥させて保管します。
モミジの種子は、羽を切り落として一粒ずつに分けます。水に沈んだ種子の方が発芽率が高いとされます。種をまく際は、あらかじめ1cmほどの穴をあけ、軽く土をかぶせます。
挿し木の手順
オリーブは親木から枝を切り取り、水に浸して挿し穂を準備します。ケヤキは剪定した枝を水に2〜3日つけておくだけでも高い成功率で発根します。挿し穂を植え付ける前に1時間程度、活力剤を入れた水に浸すのも良い方法です。
山桜のペットボトル密閉挿しでは、挿し穂を長さ約10cmに調整し、切り口を斜めにカットします。活力剤に1日浸けて水揚げし、発根促進剤を切り口に塗布します。挿し穂は土に2/3程度刺し、ペットボトルの上部をかぶせて密閉管理します。
判断基準
ケヤキの実生苗は、貝割葉(子葉)と十字葉(本葉)の間で切ると、貝割葉の付け根から2つの新芽が出て幹を短く保てます。ニレケヤキの挿し木は、細い根しかなくても活着します。オリーブの挿し木は、鹿沼土に挿してから2〜3ヶ月で発根し、新しい葉が成長します。
樹種別の違い
* 赤松: 種まき前に1〜2ヶ月の低温処理を行うと発芽が促進されます。
* ケヤキ: 剪定枝を水につけるだけで発根しやすく、実生苗の切り詰めで双幹にしやすい特徴があります。
* モミジ類: 挿し木は梅雨時期が適期です。種は水に沈むものを選ぶと発芽率が高まります。
* 桜類: 挿し木は春先か梅雨時期に行います。山桜にはペットボトルで湿度を保つ密閉挿しという手法があります。
* 松柏類: 真柏は3月〜9月と挿し木の可能な期間が長いです。杜松は挿し木が容易で早く素材を作れます。五葉松は接木が用いられます。
* パンダガジュマル: 実生は根が太りやすく、挿し木は太りにくい傾向があります。
* 老爺柿: 実生の場合、約90%が雄木になります。
* ニレケヤキ: 挿し木で細い根しか出ていなくても活着します。
* ハナカイドウ: 根伏せや取り木も活用され、取り木は幹元を太くする効果があります。
こんなやり方は要注意
種を深く埋めすぎない
モミジの種子を植える際、穴が深すぎると芽が地上に出られず枯れる可能性があります。植え付けは1cmほどの穴に軽く土をかぶせる程度にしてください。
琴姫モミジの仕立て方
琴姫モミジの幹が土中で棒状に長く伸びている場合、すぐに豆盆栽には仕立てられません。一度土鉢に植えて幹を太らせ、後日取り木を行うのが良いでしょう。
老爺柿の実生
老爺柿を種から育てると、発芽した苗のうち約10%が雌木、約90%が雄木になります。実のなる雌木を得たい場合はこの確率を考慮する必要があります。
実践のコツ
発芽・発根を促進させる
赤松や山桜の種は、まく前に冷蔵庫で低温処理(層化処理)を行うと発芽が促進されます。ケヤキの挿し穂は、植え付ける前に1時間ほど活力剤を入れた水に浸しておくと良いでしょう。山桜の挿し穂には発根促進剤を切り口に塗布します。
幹を短く、太く作る
ケヤキの実生苗は、貝割葉と十字葉の間で切ると付け根から2つの新芽が出て、幹を短く保てます。ハナカイドウは取り木をすると幹元が太くなり、貫禄が出ます。ケヤキの取り木で幹を短くする際は、切り口が枯れないようゆっくり作業を進めると新芽が出やすくなります。
桜の密閉挿し
山桜の挿し木では、ペットボトルで挿し穂を密閉する方法があります。挿し穂を土に刺した後、ペットボトルの上部をかぶせてテープで密閉します。管理は室内の窓際の日陰で行い、湿度を保ちます。


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