黒松の幹を太らせる養成期(年5〜10) — 種から完成樹までの道筋
この段階の俯瞰
種まきから5年ほど経過し、苗木としての基礎ができた黒松を、盆栽としての見栄えを左右する太い幹へと育て上げる養成期です。黒松は力強い樹形と硬く濃い緑色の葉が織りなす重厚な佇まいが盆栽の王道として愛されていますが、その風格の土台となるのがこの時期に作られる幹の太さです。
この期間(およそ5〜10年目)は、完成時の樹形を細かく作り込むよりも、幹の肥大と根元の充実を最優先とします。徒長枝を意図的に伸ばして養分を強く吸い上げさせ、十分な太さを得た後に切り戻すというダイナミックな作業を繰り返します。目標とする太さに達した段階で、次の枝作り・樹形作りの段階へと移行します。
やる作業
犠牲枝(徒長枝)の活用と剪定
幹を太くするための最大のポイントは、徒長枝を「犠牲枝」として利用することです。幹を太くするためには、徒長枝をまっすぐ伸ばして利用します。根から養分を吸い上げる力が最大化し、結果として幹の肥大が促進されます。この徒長枝は幹を太らせる役割を終えた時期が来たら剪定して取り除きます。
また、若木の冬芽調整においては、枝や幹を太らせるために中心の一番強い芽を残し、周りの弱い側芽は全て欠き取ります。新芽を1つに絞る際も、真ん中の芽を残すことで幹をまっすぐ太くする効果が期待できます。新芽が伸びる春は剪定を控え、樹勢を落とさないように育成の基本に忠実に管理します。
肥培と水やり
幹を太らせるためには、肥料をしっかりと効かせることが不可欠です。新芽が伸びる春は剪定を控えるとともに、樹勢を落とさないよう肥料と水を十分に与えます。
水やりは盆栽の基本中の基本であり、枯らす原因となることが多く、プロでも「水やり3年」と言われるほど難しい作業です。ホームセンターで数百円程度で購入できるジョーロで十分対応可能です。水やりの適切な量は、鉢の底から水がチョロチョロと漏れてくるのが合格のサインです。鉢の中に水をやることを「腰水」、葉に水をやることを「葉水」と呼びます。
季節ごとの目安として、春・秋は1日1回(または1〜2日に1回)、真夏(7月〜8月)は1日2回(朝・夕)、冬は3〜5日に1回(または3日に1回)程度の頻度で行います。夏場は乾燥しやすいため、1日2〜3回を目安にすることもあります。
また、松類への葉水は、夕方に行うと葉が長くなる原因になるため、日中に行うのが適しています。
植え替えと根元の工夫
植え替えは2〜3年に1回の頻度で行い、最適な時期は3月20日から4月中旬です。
小さくて太い黒松を作るために、取り木や針金結束といった手法を用いて根元を太らせる工夫も行われます。黒松の根元を太らせるためには、種から育てる段階で長年実践しているコツがあり、日々の積み重ねが根元の迫力を生み出します。
道具・用土・環境
幹を太らせる養成期では、小さな盆栽鉢ではなく、地植えや大鉢、あるいはザルを用いた培養が効果的です。特にザルでの培養は水はけと通気性が良いため、高い肥培効果が得られ、根の成長とともに幹の肥大が加速します。
黒松は赤松に比べて葉が硬く濃い緑色をしているため、この色味と質感を維持する日照管理が欠かせません。年間を通して日当たりの良い場所で管理します。
また、夏場は乾燥しやすいため朝夕の水やりを徹底し、病害虫予防のための定期的な殺菌剤散布を推奨します。
判定基準(次段階に進めるか)
この養成期を終える目安は、目標とする幹の太さに達したかどうかです。作りたい完成樹のサイズによって目標の太さは異なりますが、根元から立ち上がる幹に十分な力強さが備わったかどうかが判断基準となります。
また、幹の近くに生えている「ふところ枝」が残っているかどうかも観察ポイントです。徒長枝は時期が来たら剪定しますが、切り落とした後、このふところ枝を芯にして新たな樹形を作っていくため、幹が太くなっても下部の枝が枯れ落ちていない状態を維持できていることが、次の段階へ進むための条件となります。
失敗例とリカバリー
幹を太らせるために伸ばしている徒長枝(犠牲枝)を、途中で曲げてしまうのは避けるべき失敗例です。徒長枝を途中で曲げると、養分を吸い上げる力が弱まり、幹の肥大が鈍る可能性があります。太らせる目的の枝は、まっすぐ上に向かって伸ばし切るのが鉄則です。
また、水やり不足による枯死もよくある失敗です。表面だけ濡らして鉢底まで水が通っていないと、根が傷んで肥大が止まります。必ず鉢底から水がチョロチョロと漏れてくるのを確認してください。

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