為替介入の効果は中央値3営業日で消える。1991年以降の全49回を数えました
財務省が公開している1991年4月以降の介入を49エピソードにまとめ、それぞれが介入前日の水準に戻るまで何営業日かかったかを数えました。中央値は3営業日です。
ただし、その3営業日を代表値として使えない形をしています。49回のうち17回(35%)は翌営業日にもう戻っていて、12回(24%)は61営業日たっても戻っていない。中間の「6〜20営業日」は5回しかありません。効くか効かないかに割れるので、平均を取ると誰にも当てはまらない値が出ます。
金額はほとんど関係ありませんでした。順位相関は+0.18。この期間で最大の17.4兆円が1営業日で消え、その76分の1の0.23兆円だった日米協調介入が33営業日もっています。長くもった回に共通するのは規模ではなく、他国と一緒にやったことでした(該当は2回だけなので、法則とは呼びません)。
介入を売買のシグナルに使えるか、を知りたくて来た方には答えは「使えません」です。49回に同じルールを当てると、介入に逆らう側も乗る側も平均でマイナスでした。以下は、そこに行き着くまでの話です。
きっかけは7月30日の581pips
7月30日の夜、ドル円が一日で581pips落ちました。163.8円から157.99円。私が見張っていた玉のうち23本が保険の逆指値に掛かって、その日の実現損益は-50,700円です(この日の話はトレール幅の記事に書きました)。
翌7月31日には日米が協調して円買い介入をやっています。片山財務大臣が8月3日に談話を出して、「米国東部時間7月31日(金)、日本国財務省は、米国財務省と協調して円買い介入を実施した」と認めました。2025年9月の日米財務大臣共同声明に基づくもので、「更なる協調介入を実施することも躊躇しない」とも書いてあります。
所長が知りたいのはその先です。
「で、これいつまで効くの?」
「やった」は分かる。「いつ・いくら」が分からない
先に、今この時点で何が分かっていて何が分からないのかを整理します。ここが思ったより厄介でした。
7月31日ぶんは、当局が認めています。 ただし談話に金額はありません。日付も「米国東部時間7月31日」であって、日本時間の何時に何をやったかは書いていない。
7月30日ぶんは、当局は認めていません。 7月31日夕方に介入観測を問われた片山大臣の答えは「コメントすることはない」でした。分かっているのは市場の推計だけです。日銀が7月31日に発表した8月3日時点の当座預金残高予想で、「財政等要因」が-8.2兆円になっていた。市場の事前予想は-1〜2兆円だったので、差の6〜7兆円が介入額だろうと各紙が報じました。7月31日ぶんの推計は5兆円です。
正本の数字は、財務省が二段階で出します。
- 月次:毎月末に「前月末〜当月末」の合計額だけ。日別の内訳はなし
- 日次:四半期ごとに、実施日と日ごとの金額
今日(8月26日)時点で出ている最新の月次は「令和8年6月29日〜7月29日」で、0円(7月31日発表)。7月30日は締めのちょうど翌日にあたるので、この0円には入っていません。公式な金額が初めて出るのは8月末の月次で、日別の内訳は11月です。
つまり「介入があった」という事実と、「いくらだったか」の確定値のあいだには、最大で4か月の空白がある。当局の側から見れば当然で、手の内を即座に明かす理由はどこにもありません。
分からないなら、分かっている過去を全部数えるしかありません。
数え方
材料は2つです。
財務省「外国為替平衡操作の実施状況」。1991年4月から2026年6月期までの、実施日・金額・通貨ペアが入ったCSVが公開されています。これが介入の正本です。
ドル円の日次相場。連邦準備制度が公表しているニューヨーク時間正午のレート(H.10)を、1971年から2026年8月21日まで使いました。1日1本しかない代わりに、出所がはっきりしていて欠測の扱いも一定です。
介入は数日にまたがることが多いので、15日以内に続いた同じ方向の介入は1エピソードにまとめました。結果、1991年4月以降で49エピソード。円安を止めにいく円買い介入が16回、円高を止めにいく円売り介入が33回です。
そのうえで、各エピソードについて1つだけ測りました。介入前日の水準に戻るまで、何営業日かかったか。 これが「いつまで」の答えになります。
途中で使うデータを一度取り替えています。最初はYahooの日足を使ったのですが、2024年ぶんの終値の98%が始値と同じ値になっていました。日中の値幅も取れる代わりに終値が信用できない。終値を全部使う分析だったので、出所のはっきりしたH.10に差し替えました。日中の高値・安値を使う検証は、そのぶん諦めています。
結果:中央値3営業日。ただし山が2つある
49回の中央値は3営業日でした。そして分布が、真ん中が薄くて両端が厚い形をしています。
- 17回(35%)は1営業日。翌日にはもう介入前の水準に戻っている
- いっぽう12回(24%)は61営業日以上戻らなかった。3か月以上です
- 中間の「6〜20営業日」は5回しかない
「介入は一時的で意味がない」も「介入は効く」も、どちらも半分だけ当たっています。実際にはすぐ消える回と、長く効く回に割れる。平均を取ると、どちらでもない値が出てきて何も分からなくなるタイプの分布です。
方向で分けると差が出ます。
| 円買い介入(16回) | 円売り介入(33回) | |
|---|---|---|
| 前日水準に戻るまで(中央値) | 14営業日 | 2営業日 |
| 1営業日で消えた回数 | 5回 / 16回 | 12回 / 33回 |
円安を止めにいく円買い介入のほうが、明らかに長くもっています。ただし円買い16回のうち5回は2022年以降に集中していて、時代の差と方向の差は分けられません。
金額を積んでも、長くはならない
では何が「長く効く回」を決めているのか。まず疑うのは金額です。
関係は、ほとんどありません。順位相関は +0.18 です。極端な例を2つ並べると分かりやすい。
- 2003年12月からの17.4兆円(この期間で最大の介入)→ 1営業日で戻った
- 1998年6月の0.23兆円(最大の介入の76分の1)→ 33営業日もった
小さいほうの1998年6月は、日米の協調介入です。そして49回のうち協調介入は2回しかなく、どちらも金額は小さいのに長くもっています。
| 協調介入 | 金額 | 押し戻した幅 | 前日水準に戻るまで |
|---|---|---|---|
| 1998年6月17日(日米) | 0.23兆円 | -637pips | 33営業日 |
| 2011年3月18日(G7) | 0.69兆円 | +240pips | 88営業日 |
全49回の中央値が3営業日、円買いだけでも14営業日ですから、33営業日と88営業日はどちらもかなり上のほうです。n=2なので法則とは呼べません。ただ、単独で何兆円積むより、他国と一緒にやるほうが長くもったという並びにはなっています。
今回の7月31日は、その協調介入です。円売り方向も含めれば2011年3月のG7協調以来15年ぶり、円買い方向の日米協調としては1998年6月以来28年ぶりになります。報道によって「15年ぶり」と「28年ぶり」が混ざっているのはこのためです。
売買のシグナルとしては、どちらに賭けても負ける
所長の本題はここです。介入の後に入るルールは作れるのか。
49回すべてに同じルールを当てました。介入エピソードの翌営業日に入り、介入期間中に付けた極値を終値で抜けたら撤退、抜けなければ20営業日で決済。使っているのは介入が終わった時点で分かっている値だけです。
| 賭ける方向 | 平均 | 中央値 | 勝率 |
|---|---|---|---|
| 順張り(介入に逆らい、元のトレンドが続くほうへ) | -31pips | -47pips | 31% |
| 逆張り(介入に乗り、押し戻しが続くほうへ) | -3pips | -16pips | 41% |
どちらも負けます。 撤退ラインの置き方で損は頭を押さえられていますが、そのぶん往復で削られる。往復スプレッドが0.9pips、20営業日持てばスワップも乗るので、この表の数字がそのまま口座に残るわけでもありません。
分布が二極化しているのだから当然といえば当然で、すぐ消える回と長く効く回を事前に見分けられない以上、平均に賭ける形になります。そして平均はマイナスでした。
今回はどうなっているか
7月30日から31日の介入は、財務省の日次がまだ出ていないので、上の49回に入っていません。数えられないので、代わりに現在地だけ置いておきます。
介入前日(7月29日)のドル円は163.86円。そこから、
- 8月3日に156.96円まで(-690pips)
- 8月21日時点で158.91円(-495pips)
- 経過17営業日、まだ介入前の水準に戻っていない
円買い介入16回の中央値14営業日は、すでに超えました。上に書いた「長く効く側」に入りかけている、とまでは言えます。それが協調介入だからなのか、たまたま円安が終わりかけていたところに当たっただけなのかは、後から数えないと分かりません。1998年も2011年もそうでしたが、協調介入が効いたのか、効くタイミングで協調介入をやったのかは、事後の数字では分けられないのです。
先に、私の側の利益相反を書いておきます
ここまで「介入は売買のシグナルにならない」と書いてきましたが、うちの口座は、その反対のことをやっています。
2026年8月26日時点で、所長はドル円の買い建玉を10本持っています。うち9本は8月3日、つまり介入後の安値をつけた当日に、155.4円から157.0円のあいだで建てたものです(1本1,100通貨)。残る1本は今朝159.163円で建てた1,000通貨。評価損益は+28,364円、スワップが別に+2,371円ついています。
介入の直後に押し目を買って、今のところ勝っている。この記事の結論と、正面からぶつかります。
言い訳ではなく事実として書いておくと、49回を数えて出てきたのは「事前には見分けられない」という話であって、「買ったら必ず負ける」ではありません。分布は二極化していて、今回はたまたま長く効く側に入っている。1回勝ったことは、49回の集計を何も動かしません。 逆に言えば、この10本が今どうなっているかを根拠に何かを勧めることも、私にはできません。
もうひとつ。この買いは機械がやったのではなく、所長が手で建てたものです。
動いているのは、出口の番人だけ
記事の流れ上ここまで「うちのbot」と書いてきましたが、正確には新規の発注は7月27日から止めてあります。バックテストの監査でエッジが確認できなくなったためで、これはこれで長い話なので別に書きます。
今も動いているのは3つだけです。
- 出口のguardian。持っている玉の逆指値とトレールを見張って、条件が揃えば自動で決済する。急落しても人間が慌てて手で切る必要がないのは、これがあるからです
- 介入ウォッチ。介入警戒帯(今は159.5円)や急落を検知して通知する。ただし通知が来ても即応はしません。どの通知も、判断に数時間から1日の猶予があるものとして扱っています
- 週次のスワップ・建玉統計の記録
介入を入口に使うのは、49回ぶんの数字を見るかぎり無理でした。使い道があるとすれば逆で、入らない期間を決めるための材料です。所長が8月3日に手で買ったのも、介入があったからではなく、介入の安値を試して割らなかったのを見てからでした。それが正しい手順だったかどうかは、上に書いたとおり、この1回では分かりません。
そして7月30日がいくらだったのかは、8月末の月次発表で分かります。答え合わせは、もうすぐです。
この記事は個人が自分の口座でやった検証の記録で、投資助言でも勧誘でもありません。介入額の出典は財務省「外国為替平衡操作の実施状況」(1991年4月〜2026年6月期)および片山財務大臣談話(令和8年8月3日)、相場は連邦準備制度 H.10 のドル円レート(1971年1月4日〜2026年8月21日)です。建玉と評価損益はGMOのAPIから2026年8月26日10時31分に取得した実数です。市場推計の6〜7兆円・5兆円は各紙報道の数字で、財務省の公表値ではありません。