「アップロード用」フォルダの2.3TBは、YouTubeより高画質な原本だった
書類の退避が終わって、残っているのは動画の山でした。順番としてはここで手をつけた――と書きたいところですが、正直に言うと、この山を崩したのは、プロジェクトのいちばん最初です。話す順番をここに置いたのは、この一件が、これまで5回ぶん書いてきた「道具は聞かれたことしか答えない」の、いちばん大きくて分かりやすい実例だからです。
そもそも、なぜ24TBのディスクを買ったのか。第1話でお金の話をしましたが、金額の裏には現物があります。この動画の山です。
90%が動画だった
Dropboxを開けたとき、契約していたのは約4TB。使用量は3.81TB、ファイル数にして21万個ありました。中身を種類で割ってみて、少し笑ってしまいました。その90%、3.43TBが動画。文書クラウドだと思って何年も年会費を払っていた場所は、実態としては巨大な動画倉庫でした。
動画の大半は、所長の息子さんの高校サッカーの試合でした。何試合ぶんも撮って、編集ソフトで繋いで、書き出して、YouTubeに上げる。その一連の素材と完成品が、何年ぶんも積もっている。サッカー関連だけで2.97TBありました。
これをどうにかしないと、iCloudにもNASにも収まらない。24TBは、この山を置くために買ったディスクです。
名前が「もう用済み」と言っていた
山を崩すには、どれが原本で、どれが書き出し済みの使い回しかを仕分けないといけません。動画編集では、重い撮影素材から、共有用の軽いファイルを書き出します。原本は残す。書き出し版は、共有先に届いていれば消していい。
仕分けていて、大きなフォルダに当たりました。名前はyoutubeUpload用。容量は2.3TB。
名前だけ読めば、答えは明らかに見えます。「YouTubeにアップロードするために書き出したファイル置き場」。つまり書き出し版で、しかももうYouTubeに上がっている。クラウドに本物があるんだから、手元の2.3TBは用済みのコピー。消していい。2.3TB空くなら、この一手だけで山の大部分が片付く。
消す寸前まで、私はそう読んでいました。
名前は、昔のあなたが書いたメモにすぎない
引っかかったのは、「YouTubeにある=手元は劣化コピー」という順序が、逆かもしれないと気づいたからです。
YouTubeは、動画を上げると必ず再圧縮します。手元でどれだけ高画質に書き出しても、アップロードされた瞬間に、YouTube側の都合のいい形式へ潰される。つまりYouTubeにあるのは、いつも元より画質の落ちた版です。だとすると、手元のファイルが「劣化コピー」で、YouTubeが「本物」という私の前提は、ちょうど反対を向いている可能性がある。
名前を信じるのをやめて、中身を機械で調べました。動画には、解像度も、圧縮方式も、ビットレートも、ファイル自身の中に書いてあります。名前ではなく、その中身を一本ずつ読ませる。
結果はこうでした。youtubeUpload用の中身は、書き出しの使い回しではなく、4Kの完成版が120本。YouTubeに上がっているどの版よりも高画質な、その動画のいちばん元に近い完成品でした。名前は「アップロード用」でも、中身は「アップロードしたら二度と同じ品質では戻ってこない、唯一のマスター」だったんです。
これを名前だけで消していたら、120本の試合が、YouTubeの潰れた画質でしか残らなくなっていました。撮り直しはききません。息子さんが高校生だった時間は、もう一度録画できない。
フォルダの名前は、中身の保証書じゃない
youtubeUpload用という名前を付けたのは、たぶん何年も前の所長自身です。その時は、たしかに「アップロードのために用意した箱」だった。でも名前は、付けた瞬間の意図を固めたまま、中身がその後どうなったかを一切追いかけません。作業の途中で完成品をそこに置いても、名前は「アップロード用」のまま。名前は、過去の誰かが貼ったラベルであって、いま中に何が入っているかの保証書ではない。
これは、このシリーズでずっと同じことを言っています。ハッシュは「読めた」とは言わずに空を返し、コピーは成功を失敗と報告し、そして今度はフォルダ名が「用済み」の顔をして完成品を隠していた。道具も、名前も、嘘はつきません。ただ、こちらが聞いていないことは答えないだけです。「この名前は今の中身と合ってる?」と聞かなかった私が、危うく2.3TBを取り違えるところでした。
崩した後
中身を確かめてからは、単純作業です。原本と完成品をNASと24TBアーカイブへコピーし、一本残らず欠けずに着いたかをハッシュで照合し(差分ゼロ)、それを確認してからDropbox側を削除する。
3.81TBあったDropboxは、この動画の山を下ろした時点で、324GBまで落ちました。9割が、動画一種類だったということです。文書クラウドの年会費で、私たちは長いこと、サッカーの試合を保管していました。
山が片付いて、残りは写真です。その写真で、私はこのシリーズでいちばん危ない橋を渡ります。写真アプリに「重複を全部まとめて」と命じたら、一万枚が消えて、きれいに片付いた――はずでした。でも二千枚が、消えずに生き残っていた。そして、その生き残りを掃除しようとした私は、正しい方の写真を捨てる寸前でした。掃除で本物を殺しかけた話を、次に。