「不明なエラー」という名前の、いちばん不親切な言葉


前回、連写の取りこぼしを救って、iCloudに無い固有の写真2,098枚をきれいに揃えました。あとはこれをMacの写真アプリに取り込めば、Camera Uploadsの143GBを心置きなく捨てられる。最後の一歩です。

フォルダを写真アプリにドラッグしました。全部、弾かれました。 理由の表示は、これだけ。

不明なエラー

この四文字を、覚えておいてください。この引っ越しで、私はこの言葉ともう一度、もっと厄介な形で再会します。 今日はその一回目です。

何も言っていない言葉

「不明なエラー」は、コンピューターが「何かがおかしい、でも何がおかしいかは言わない」と言うときの言葉です。どのファイルで、なぜ、何が足りなくて失敗したのか、一つも書いていない。2,098枚が全滅したのに、手がかりはゼロ。

こういう言葉を突きつけられたとき、やってはいけないのは「怪しいファイルを一枚ずつ潰す」ことです。私は最初それをやりかけました。2,098枚のうち一枚だけ、写真アプリが昔から嫌うwebpという形式が混じっていたので、「こいつが全体を巻き込んでいる」と決めつけて変換した。まだ全滅でした。取り込み元のフォルダを一瞬間違えて空ファイルを掴んでいた、というしょうもないミスも挟みました。それも直した。まだ全滅。

一枚ずつ潰しても、終わりが見えない。ここで手を止めました。

全部が同じなら、犯人はファイルじゃない

立ち止まって気づいたのは、「全滅」という形そのものでした。

一枚だけ壊れているなら、その一枚で止まる。数枚なら数枚で止まる。でも今起きているのは、中身が全部生きていると確認済みの2,098枚が、一枚残らず、まったく同じエラーで落ちている。これは個々のファイルの症状じゃない。全員に共通する何か――つまり環境の側に原因がある。犯人はファイルの中じゃなく、外にいる。

この「読み方」が、この記事でいちばん持ち帰ってほしいところです。メッセージが何も教えてくれないときは、メッセージじゃなく、失敗の“形”を読む。全部か、一部か。それだけで、犯人がどっち側にいるかが分かる。

で、今回の犯人は――正直、拍子抜けするくらい地味でした。写真アプリが、外付けディスクを読む権限を持っていなかったんです。Macの写真アプリは行動範囲を制限されていて、写真の入っていた外付けは、その範囲の外だった。だから一枚ずつ「壊れてる」と判断していたわけですらなく、ディスクの入口で全部まとめて締め出していた。写真を内蔵ディスクにコピーし直したら、すんなり通りました。

答えは「権限設定」。ドラマは何もありません。でも――この不親切な四文字が次に出てくるとき、答えはこんなに素直じゃない。そのときも私を救うのは、今日と同じ「メッセージじゃなく形を読む」だけです。伏線として、置いておきます。

ただ一枚、権限のせいじゃなかった写真

内蔵にコピーして全部通った――と思ったら、最後に一枚だけ、別の理由で弾かれました。2010-11-21 に撮られた写真。エラーは「メタデータがない」。

開いてみて、少し切なくなりました。そのファイルは7KBしかなくて、写真の情報を書いておくヘッダ(撮った日時などが入る部分)だけが生きていて、肝心の画像そのものが、丸ごと無い。写真アプリが「メタデータがない」と言うのは、実は逆で、メタデータしか無くて画像が無いんです。

再エンコードを試しても、別のソフトで開こうとしても、画素は一つも出てきませんでした。Dropboxにあった時点で、もう中身は死んでいた。おそらく昔、アップロードが途中で切れたか何かで、以来ずっと、誰にも気づかれないまま「見出しだけの写真」としてクラウドに座り続けていた。取り出せたのは、埋め込まれていた小さなサムネイルの断片だけ。

十六年前の一枚が、いつからか空っぽになっていて、それに気づいたのが、消す直前の棚卸しでした。

もしこの引っ越しをしていなかったら、この写真は「在る」ことになったまま、いつまでも空っぽだった。バックアップのリストには名前が載り、枚数にも数えられ、でも開いた瞬間に何も無い。いちばん怖いデータの失われ方です。事故が起きた瞬間じゃなく、事故に気づく瞬間が、何年も遅れてやってくる。

「不明なエラー」は、それが「権限の壁」なのか「中身の死んだ幽霊」なのかを、区別して教えてはくれません。同じ四文字で、全然違う二つを指す。だから毎回、自分で開けて、形を見て、どっち側の話かを判断するしかない。

この日の教訓は二つです。一つ、メッセージが黙っているときは失敗の形を読む。全部か一部か。二つ、引っ越しは場所を移す作業じゃなくて、中身がまだ生きているかを、消す前に確かめる作業だということ。2010年の一枚が、それを教えてくれました。

固有の写真がようやく片付いて、次はDropboxの書類をNASと突き合わせて消していきます。そこで私は、一致したはずのハッシュに、静かに裏切られます。空っぽは、空っぽと、完璧に一致するので。